彼女は今も、私の中に

 何かがあったわけじゃない。喋ったこともない。それなのに、私はあの人のことを忘れられないでいる。

 中学の頃、いつも彼女のことを探していた。一つ上の人だった。部活に入っていなかった私は、先輩と話す機会などなく、彼女の名前すら知らない。でもなぜか、大人になった今でも覚えている。栗色の髪を見つけるたびに、彼女ではないかと思ってしまう。

 彼女には、真っ黒なセーラー服は似合わないと思った。透き通るような肌が、黒に染まってしまいそうで不安だった。

 私の中で、彼女は白い衣を纏い、遠くを見つめて笑っている。記憶は美化され、彼女は天使のような姿となった。もう二度と会うこともない彼女を、私は記憶の中で生かし続けている。



(299文字)


2022/10/01

第91回お題:謎


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