忘れたくないから

 川の中を歩くと、足の裏にでこぼこを感じた。俺の足より大きい石もあれば、親指の爪くらいの石もある。

 川底に足を滑らせて、石を選んだ。拾い上げたのは、小さな石ころ二つ。使いかけの消しゴムくらいの大きさだ。そのうち一つを差し出すと、先生は何も言わずに手のひらを広げた。

「これ、今日の思い出」

「丸くてかわいいですね」

 水の流れで丸くなった石は、先生の手の上で小さく揺れた。

「俺のはこっち」

「へえ、僕のとお揃いですか? よく似てますね」

 お揃い、という言葉の響きが甘くて、手のひらに汗が浮かんだ。石をぎゅっと握って誤魔化す。

 子どもっぽいことをしてしまっただろうか。でもいい。少しくらい、形に残る思い出が欲しかった。



(298文字)


2022/08/06

第89回お題:石



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