体温

「見すぎ」

 そう言われて、随分長い時間その手を見つめていたことに気がついた。不思議そうな目がおれを捉えている。ぐ、と喉の奥で息が詰まった。

「なに? なんか気になることでもあんの?」

「いや、別に、」

 咄嗟に嘘を吐こうとした口をつぐんで、言葉を飲み込む。鼓動がおれを急かしてくる。

「お前の手、綺麗だなと思って」

「はあ? そんなことねえだろ」

「いや、ほら、おれのと全然違うし」

 手を広げて見せると、その隣に手をぴったりとくっつけられた。手の側面が僅かに触れ合っている。こいつの手のあたたかさが、おれの体温を上げていく。

「な、全然違えだろ」

 慌てて手を引っ込めた。こいつの肌に触れていることが、無性に耐えられなかった。



(299文字)


2022/06/04

第87回お題:手


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