最後の夜

 駅までの道をナオと並んで歩く。暗い。こんな寂しい道では、俺のささくれた心はごまかすことができない。

 明日は大学の卒業式だ。それが終わったら、ナオは東京に行ってしまう。東京で暮らす彼女を追って。

 本当は行ってほしくない。でも、俺に引き止める権利なんてない。

 もし俺がナオにとって特別だったら、行くなと言えただろうか。友達とは違う、もっと特別な言葉で表わせる関係なら。

 こんな気持ちなんて、持っていても意味がない。心から剥ぎ取ってしまいたい。そう思うのに、どうしても捨てられなかった。

「あっちに着いたら連絡するから。返信待ってる」

 ナオが笑顔で言った。俺は震える声を抑えながら、うん、と呟くことしかできなかった。



(299文字)


2022/03/05

第84回お題:捨てる・棄てる


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