逃げないで

 喜田が昼休みに期間限定だというソーダを飲んでいた。爽やかな水色が日光を浴びて、机の上にゆらゆらと波を作った。それを見て、またあの日のことを思い出した。

 俺がメールを送ったのは二週間前だ。返信はまだ来ない。二学期はとっくに始まっている。

 こんな気持ちでメールを待ったのは初めてだった。目が覚めたら届いていますように。そうやって毎日祈るように眠り、何度も夜が明けた。

 先生はいつも通りだった。いつも通りすぎてむかついた。せめて少しくらい、気まずそうな顔をしてくれてもいいのに。

「先生」

 廊下の端で振り返った先生の顔を見て、俺は少し笑ってしまった。いつも通りだと思っていた顔は、ただのポーズだったのかもしれない。



(299文字)


2022/02/05

第83回お題:祈る


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