救われない

 遊覧船で湖を一周したら、戻ってくる頃には暗くなっていた。街に明かりが灯っているのが見える。

 船を降りてからも、足元がまだふわふわしているような気がする。俺は船が苦手らしい。

「今日はありがとう」

 風で乱れた髪を直しながらナオは言った。その清々しそうな顔を見て、心臓が潰れそうになる。

「トモと過ごせて良かった」

 そんな顔で言うなよ。

 聞きたくない。答えを聞いたら、今が終わってしまう気がする。でも今聞かないと。

「あいつのとこ、行くのか?」

「うん。トモがいてくれたから、俺は決心できたんだよ」

 そんなナオの言葉は、俺にとって何ひとつ救いにはならない。手を取って、行くなと言ったら、ナオはどんな顔をするのだろうか。




(298文字)


2021/11/06

第81回お題:救う


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