後編
家に帰るのは、やっぱり気が重かった。一歩、また一歩と踏み出す度、家へと近づいているという事実が私を憂鬱にさせる。
もう一度、学校に戻ろうか。そんなことを考えもしたが、それにはこの後の予定のことを考えると、あまりにも微妙な時間帯だった。だからと言って、この田舎の帰り道に洒落たカフェなんてものもなく、あったとしてもそこへ入るお金もない。それに、少しでもこの制服を乾かさなきゃいけなかった。だから、私は進まざるを得なかったのだが、それでも嫌なものは嫌だった。
慣れたと思っていた。こんな毎日は。けれど、いくらそう思っても、本当に慣れるということはなかった。もう何年も繰り返されている日々はしっかりと私を痛めつけることをやめない。
家が見えてきた。今日もやっぱり足が震えた。逃げ出してしまいたかった。けれど、今の私には帰る場所がそこしかない。それが現実だった。
「ごめんなさい」
一度、足を止めて、謝る練習をする。学校で培われた、誰も私を傷つけない感覚を忘れてしまえるように。傷つけられることが当たり前のこの場所に帰れるように、痛みを感じる自分という存在を消す。
玄関の前に立った。そっと、ドアに手を伸ばす。吐きそうなくらいに気分が悪い。頭がガンガンと痛みを訴える。雨音が遠くに感じられる。
「大丈夫、大丈夫だから」
死んだりしない。だから、大丈夫。私は自分を叱咤した。それで全身を襲う拒絶反応がなくなるわけではないけれど、そうでもしなくては、ドアを開けることすらままならなかった。
さぁ、ドアを引け。
脳がそう命令を下した、次の瞬間だった。
「あれ、怜ちゃん?」
突然、背後から声をかけられて、ビクリと震えた。そのせいで、ドアノブに伸ばしかけた手は引っ込んでしまう。私は恐る恐る背後を振り返った。
「……虎」
そこにいたのは、大きな体に、日に焼けた肌、厳しい面構えをした男だった。普通の少女ならば、悲鳴をあげてしまいそうなほどの凶悪な容姿の彼。しかし、私は久しく見ていなかったその姿に目を丸くする。代わりに湧き上がってきたのは、さっきまでの恐怖を吹き飛ばしてしまうほどの安堵だった。
「帰ってきてたんだね」
私は彼に抱きついた。そうでもしなきゃ、力が抜けて、膝から崩れ落ちてしまいそうだった。彼はそんな私に驚いたようだったが、しっかりと太い腕で抱きとめてくれた。
「おうよ、久しぶりだな。怜ちゃん。びしょ濡れじゃねぇか。それに、相変わらず細っこいな。元気にしてたか?」
彼は快活にニコニコと笑う。それすらも、かなりの迫力があったが、慣れていた私にとっては懐かしい笑い方だった。一方で、私は彼の問いかけにどう答えていいかわからなかった。だから、迷いながらも、「どうにか」と曖昧に返す。彼はそんな私の僅かな機微に、訝しがるように片眉を上げた。
「なんだ、訳ありか? 瞳さんは?」
瞳さん、というのはあの人の名前だ。私はその名前を聞くだけで、胃がキュッと締め付けられる思いがした。私は咄嗟に首を横に振った。
「わかんない。私も今帰ってきたところだから。多分、家にいるんじゃないかな」
「ふぅん」
「あの人に何か用?」
「いや、別に。今日は久々に怜ちゃんの様子を見にきただけだ」
「そっか、ありがとう」
どうやら、彼はただそれだけのために来てくれたようだった。私はなんだか申し訳なくなったけれど、それでも彼の心遣いを無駄にはしたくなかったので、笑って礼を言う。
彼は私の笑顔を見て、ようやく安心したらしく、目を細めた。
「いやぁ、怜ちゃんはやっぱり別嬪さんだな。そんな笑顔が拝めるなら、わざわざ来た甲斐があるってもんだ」
「やめてよ、別嬪さんなんて」
「いやいや、本当にそう思ったんだって」
私にはそんな言葉は似合わない。本気でそう思って、返した言葉だったけれど、そう言われてしまえば、再び強く否定することもできない。それに、虎は私をどこか遠い目で見ていた。ああ、まただ。虎は私を誰かと重ねて見ている。私はそれに気がついて、気まずくなった。それを誤魔化すために、話を変えることにした。
「今日は、この後もう帰るの?」
「いや、特に決まってない。怜ちゃんは?」
「私はあと一時間半くらいでバイト。それまでは暇かな」
「そっか。もうバイトしてるんだな」
「うん。お金は必要だから」
「そうだな、違いない」
彼はそこでちらりと腕時計を確認した。私はそれに対して、やっぱり虎は意外にマメだよなぁと改めて思った。やんちゃしていたこともあって、一見粗暴な言動が目立つ彼だが、根は優しい。そのおかげで、実際私は何度彼に助けられたかわからない。私の事情を話しているわけではないけれど、彼に対しては一定の信頼を置いていた。
虎は今の時刻を確認すると、うーんと唸った。
「そうだな、少し茶でも行くか」
「え、連れて行ってくれるの?」
「つっても、若い女の子が好きそうな感じのところじゃねぇぞ? 前に溜まり場にしてた喫茶店だ。多分、もう寂れてるんじゃねぇか。俺らが一番の客だったからな。もしかしたら潰れてるかもな」
「それでも、いいよ。と言うよりは、少し行ってみたいかも」
私は彼の提案に乗っかった。この家に帰りたくない一心だった。咄嗟に飛びついたせいで、声が少し上ずって、震えた。
「そうか。なら、行ってみるか」
彼はニヤリと笑った。まるで、私の必死の気持ちを見透かされたようだった。
虎は私の心を読めていたりだろうか。私はふと、そんなことを考えた。サイコメトリーなどフィクションの中にしかいないのは知っている。けれど、彼は私について全てを知っているのに、それをあえて隠しているんじゃないだろうか、と時々考えてしまうのだ。絶対に、それは私の妄想に過ぎないとはわかっているけれど、彼の些細な優しさに触れる度、そう思ってしまう。
「ん? どうした」
彼は足を止めた私を不思議そうに振り返った。私はそれに、慌てて「なんでもない」と返す。そして、彼の背を追って、再び雨の中を歩き出した。
※
その喫茶店は住宅街の一角にひっそりと佇んでいた。よく言えばレトロな、けれど率直に言ってしまえば寂れた店構えのそこは一見、まだ営業しているのかさえ怪しい。しかし、よくよく見ればドアにはOPENの札がちゃんとかかっていて、潰れているわけではないことを知らしめていた。
それを目にした虎は嬉しそうに目を細める。
「よかった、まだマスターはくたばってないみたいだな」
入り口のドアを開けてみると、カランカラン、とドアベルが軽やかな音を立てた。次いで、少しノイズの混じった音楽が私たちを迎える。その曲には聞き覚えがあって、どうやらひと昔前の歌謡曲のようだった。
「よぉ、マスター。久しぶりだな」
壁に沿って配置されているのは中の綿が潰れきった革張りのソファと深みのある色をしたテーブルの数々。その向こうには銀のスツールの列と重量感のあるカウンターが鎮座していた。それらに囲まれた更に奥。そこには白い髭が魅力的な一人の男性がカップを磨いていた。歳はすでに六十は超えているだろう。もしかしたら虎が生きているかを心配していたあたり、七十も超えているのかもしれない。しかし、シャンと伸びた彼の背がまだまだ現役であることをうかがわせた。
彼は虎の大きな体に気づくと、一瞬目を丸くした。しかし、次の瞬間には懐かしそうに、穏やかに笑った。
「ああ、虎じゃないか。しばらく見なかったから心配していたよ。まさか、またここへ来てくれるだなんて、嬉しいよ」
「俺もだよ、マスター。まだくたばってないとはな」
「ハハッ、口が悪いのは相変わらずだねぇ。まぁ、いい。せっかく来てくれたんだ。いつもの席に座りなよ」
「おう。そうする」
そう言うと、虎はカウンターの方へと歩いていき、一番隅っこの席にどっかりと腰掛けた。私もそれに続いて、彼の隣に座る。すると、コーヒーのいい匂いがふわりと鼻をくすぐった。
「で、今日はこの麗しいお嬢さんのこと、紹介してくれるのかい?」
「ああ、そうだったな。紹介する。怜ちゃんだ」
「初めまして、桐野怜です」
私は虎に紹介されて、ぺこりと頭を下げた。すると、マスターは「いらっしゃい」と笑顔で歓迎してくれる。私はそんな彼の態度に、ホッと息をついた。マスターはとても柔らかな雰囲気の持ち主だった。初対面だと言うのに、彼にはあまり緊張を覚えない。私にとっては、それがとても珍しいことだった。
私の簡単な紹介が終わると、マスターは虎をお茶目にからかった。
「ねぇ、虎。君、怜ちゃんを攫ってきたってわけじゃないよね」
「馬鹿言うなよ、マスター。確かにナンパくらいはしたかもしんないけどな。ちゃんと合意の上さ」
「ふぅん。本当かい、怜ちゃん? こいつが怖くて頷くしかなかった……とかじゃないよね?」
「いえ、まさか。私が行きたいって言ったんです。大丈夫ですよ」
私はマスターがいかにも心配しています、といった様相で尋ねてくるので、思わず笑ってしまった。それが演技とはわかっているのだけど、あまりにも迫真なので、私の方が役者になりきれなかった。すると、マスターも笑い出す。
私とマスターが無邪気に笑い合っていると、虎が深いため息をついた。どうやら呆れられてしまったらしい。でも、彼の目がどこか懐かしそうに細められているのをみる限り、ため息こそが本心というわけでもなさそうだった。
「不思議だねぇ。怜ちゃんには初めて会ったような気がしない」
「そりゃそうだろうよ。俺だって、未だにデジャヴを感じる時がある」
「ということは?」
「そういうことだ」
「はぁ、君も相当拗らせているねぇ」
彼らは私を見て、意味ありげな会話を交わす。私はそれに首を傾げて、不思議そうにしているふりをした。本当はわかっている。彼らが何について話しているのか。でも、それに突っ込んで聞くほどの勇気も、優しさも、持ち合わせていなかった。
「それよりも、マスター。仕事」
「はいはい。ご注文は?」
「俺はコーヒー」
「私はミックスジュースで」
本当は私もコーヒーを飲んでみたかった。これだけいい匂いがするのだから、さぞ美味しいのだろう。けれど、コーヒーは苦いと聞く。私はコーヒーを飲んだことがないけれど、苦いものは苦手だった。もし残してしまったら、それこそマスターに申し訳ない。だからお子様に思われてしまうかもしれないけれど、ミックスジュースを選んだ。
「コーヒーとミックスジュースね。了解。少しだけ待っていてね」
マスターは注文を受けると、一度奥へと引っ込んでいった。多分、材料か道具を取りに行ったのだろう。そのタイミングで不意に虎が声をかけてきた。
「コーヒー、後で一口やるよ」
私は思わずどきりとした。そんなに物欲しそうな顔をしていただろうか。それとも、やっぱり彼はサイコメトリーなのだろうか。私は耳の先が熱くなって、小さくそっぽを向いた。
「ふっ、怜ちゃん、面白いな」
「……からかわないで」
「悪かったって。その、つい、な」
虎は歯切れ悪く言い訳をした。私はそんな彼をジロリと睨みつける。その言い訳はやっぱり不愉快だった。どう受け取ればいいのかわからなくて、不安になってしまうのだ。
彼は私の視線を受けて、気まずそうに俯いた。彼自身も自分の不器用さを恨めしく思っているらしかった。小さい声でもう一度「悪かった」を繰り返す。
私は彼の様子を見て、睨むのをやめた。でも、簡単に気持ちを切り変えることもできなかった。最近、虎は私に会う度に私と「誰か」と重ねて見る頻度が多くなってきている。そのことに私はいい加減、辟易としていた。
私は視線をマスターの向かった先へと移した。すると、マスターが丁度こちらに戻ってきた。片手には既に出来上がったフルーツジュースがある。彼は私たちの間に流れた気まずい空気を察したらしく、私の前にフルーツジュースを置きながら、「虎」とたしなめるように呼びかけた。
「あのねぇ、虎。君の気持ちはわかるよ。けど、それは君の事情だろ。怜ちゃんに押し付けるべきじゃない」
「わかってる。わかってるさ」
虎はクシャリと乱暴な手つきで、自身の髪をかきむしった。その目には剣呑な光が宿っている。今まで見たことのない姿だった。まるで手負いの獣のように、凶暴でどこか怯えた顔をしている。
私は彼の不機嫌にビクリと震えた。虎は私に暴力を振るったりしない。それがわかっているはずなのに、彼の物々しい気配を感じ取った途端、今までの安堵が嘘のように消え失せた。手先が、膝が、背筋が、震えてしまった。あの人の、怒声が耳の奥で蘇る。
虎はそんな私に気がつかない。唸るような声で言った。
「でも、仕方がねぇだろう。こんなにも似るとは思わなかったんだ。俺はもう忘れるつもりでいたのに」
「だとしてもだ。とりあえず、冷静になろう、虎。怜ちゃんが怯えてる」
「ハッ、怜が?」
虎はマスターの言葉を馬鹿にするように、鼻で笑った。それから、私へと視線を移す。彼の爛々と光る瞳に捕らえられた私は、咄嗟に身を縮こませた。
しかし、彼は私の怯えた様子を見た途端、突然目に見えて狼狽えた。目からは、凶暴な光が失せ、動揺だけが彼の表情を包み込む。
「ちっ、違う! 俺は、違うんだ。ごめん、怜ちゃん。俺はただあの人に!」
また、あの人。私は再びその言葉が出た瞬間、スッと心が冷たくなるのを感じた。今までの恐怖が消え、代わりにさっきまでの虎の凶暴性が私に乗り移ったかのような、強い怒りを覚える。その憤怒の炎はあまりに高温で、静かに燃える青色をしていた。
「虎、私はあの人なんかじゃない」
嫌だった。これ以上、私とあの人が重ねられることが。私は、絶対にあんな風にはなりたくない。いや、絶対になったりなんてしない。あんな悲しい生き方なんてするもんか。私は、私の生き方をするのだ。それだけは誰にも口出しさせたりなんてしない。たとえ、他人から見た私の生き方が正しくないのだとしても、それだけは絶対だ。あの人みたいになるくらいなら、私は……私は。
そんな生き方を強要する奴は皆、殺してやる。
私は歯を食いしばった。口から飛び出そうになった本性に、最後の理性で歯止めをかける。ダメだ。殺すなんて暴言を放ったら、私はあの人と同じ場所に立つ羽目になる。それは私の矜持が許さなかった。
「虎、出て行って」
「え、でも」
「早く!」
「っ!」
これ以上虎の顔を見ていて、冷静でいられる自信もなかった。私は彼に入り口を指して、それだけを言った。彼は私の怒りを目の前に、ゴクリと生唾を飲み込むと、慌てて立ち上がった。そして、転がるようにして、出口へと向かう。彼は店から逃げ出した。
そうして、その場に残されたのは、どこにも投げ捨てることのできない私の怒りと、あっけにとられたマスター、それとノイズ混じりの音楽だけだった。
「怜ちゃん、すごい啖呵切ったねぇ」
数秒は怒りを抑え込むのに必死だった。しかし、マスターの妙に気の抜けるような声を聞くと、その怒りはみるみるうちにしぼんでいった。それと同時に、私はなんてことをしてしまったんだろうという羞恥とも罪悪感ともとれない複雑な感情に襲われた。しかし一方で、こうして全てが終わった後では、無責任かもしれないが、なんだか他人事のように思えてしまった。
「すみません、マスター。お騒がせしてしまって」
とりあえず、一番の被害者はマスターだ。常連と揉め事を起こした挙句、追い払ってしまったのだから。営業妨害もいいところである。私は彼に深々と頭を下げた。
しかし、当のマスターといえば、のんびりとしたもので。
「いやいや、構わないよ? 僕は怜ちゃんが悪かったとも思えなかったしね。あいつの無神経さが悪いんだ。そりゃあ、昔の女と比べられたら、誰だって怒る」
「……そういうものですか?」
「そうさ。人生の先輩は語る、だよ。あいつは本当に乙女心というやつがわかってないよね!」
どうも、微妙にずれたことを言われている。しかし、私が思うにきっとそれが彼なりの慰め方だった。マスターはこんな私にどこまでも優しい。自然と心が落ち着いて、笑みがこぼれる。私は彼に「ありがとうございます」と伝えると、彼が用意してくれたフルーツジュースを口に含んだ。バナナや桃が溶けてドロドロになったフルーツジュースは優しい甘さだった。
「ねぇ、怜ちゃん?」
「はい」
「あんなことがあった後でさ、少し言いづらいんだけど、老婆心で言わせてもらいたいことがあるんだ」
私は驚いたけれど、彼の優しさはこの数分でも十全に感じ取っていた。だから、無下にすることもできずに、黙って頷く。「もちろん」という返事は出来なかったけど、彼は特に表情を変えることなく、話し始めた。
「僕はね、やっぱり虎が言っていたように怜ちゃんは『お母さん』に似てると思うよ」
何度聞いても、嫌な言葉だった。でも、実際私も心のどこかで気づいていた。私とあの人に重なる部分があるのは変えようのない事実なのだと。それがどれほど認めたくなくともだ。だから、虎の時のように反論せずに、私は黙ってフルーツジュースを吸い続けた。
「でもね、君の言い分も正しい。君は君だ。あの人とは違う。別の人間。それは確かだ」
別の人間。私はそうありたいと常々そう願っていたけれど、人にこうもはっきり言われたのは初めてだった。
「だからね、そんなに思い詰めなくてもいいんじゃないかと思ってる。僕は怜ちゃんとは今日初めて会ったけどね、なんとなく感じるんだ。苦しそうだなって。多分、あの人に似ないようにって考えすぎて、逆に縛られているんだと思う。僕もただ当てずっぽうで言ってるから、本当のところはどうかわからないけどね。ただ、これだけは言いたいな」
マスターはそこで一呼吸置いた。私もいつの間にか空になってグラスから顔を上げて、マスターの顔を見る。彼は自分のことじゃないのに、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「幸せになって」
また、幸せだ。
私はどういう顔をしたらいいのかわからなかった。そう言われるのは二度目。だけど、また私はその言葉の意味を理解できなかった。もちろん、辞書的な意味はわかっている。けど、そんなことを言われたところで、やっぱり私は困惑することしかできなかった。
「マスター」
でも、前回と違うことが一つだけあった。それは、マスターが初めて会った私のことをとても心配してくれているということだった。それを私がちゃんとわかっている。だから、困惑しながらでも、言えることが一つだけあった。
「ありがとう」
それが、現状の私にとって、精一杯の返事だった。それは、きちんと伝わってくれたのだろう。マスターは笑って頷いた。
この人の泣きそうな顔は見ていたくなかった。だから、純粋に私は彼の笑顔が嬉しかった。笑ってくれる。たったそれだけのことが、私が背追い込んだ数々の罪から少しだけ、救ってくれたような気がした。
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