第2話 20年後

 4月1日の午前10時。


 徹は陽の光を浴びて目を覚まし、起き上がる。


 いつもなら徹の胃の不調を心配して、胃に優しいエスプレッソを出してくれるニーナ・バルバレットが、なかなか来ない。


 徹は、(ニーナを開発した後で開発した)執事系アンドロイドのフランシスを呼び出し、ニーナを捜させた。

 

 しかし、ニーナは何処にも居ない。


「完全に消えたってことかな?」

「浴室やトイレも見ました。クローゼットの中やメイド室も見ましたが、居ませんでした。代わりに、これが残されていました。置手紙でしょうか?」


 フランシスは白い手紙を徹によこした。


「確かにこれはニーナの字だ。ニーナ・バルバレット本人が書き残した置手紙にちがいない。しかも、もう会うこともないときた。これは代わりのメイドを開発する必要がある。フランシス、開発の道具を開発室の台の上に用意してくれ。パーツは僕が選ぶから」

「かしこまりました」


 徹はピンクのドレスを選び、そのドレスに合った体のパーツ、頭・顔のパーツを選び出した。


 目はドレスの色に合わせてパールピンクを選んだ。

 



 3日後、ニーナの代わりのメイドの開発が完了した。


 台の上で仰向けになった状態のそれはまだ目を覚まさない。


 その間に、徹は2代目メイドの名前を決めた。


 2代目メイドの名前は、メイリープだ。


「目を覚ますんだ、メイリープ」


 徹がメイリープに初めての命令を出す。

 間もなくメイリープは目を覚ました。

 ピンクの目がぱっちり大きく開かれた。


 メイリープは起き上がる。フランシスがメイリープの体を支えた。


 くるっと周囲を見回してから、徹の存在に気付くと、電脳内のデータから、徹が自分を開発したんだと知り、同時に自分は徹のメイドなんだと知り、いそいそと台から降りて立ち上がるなり、電脳内の所作のデータを出して確認した。


「ミスター・トオル。初めまして」


 メイリープは桜色のツインテールを揺らして頭を下げた。


「初めまして、メイリープ」


 メイリープは自分の名前をまた呼ばれると、頬を赤らめて、笑顔で挨拶を返した。


「宜しくお願いします、ミスター・トオル」

「こちらこそ、これから宜しく、メイリープ」

「朝食のご用意をしますので、もうしばらくお待ちください、ミスター・トオル」

「その前に、エスプレッソを入れてくれないか?」

「かしこまりました。すぐにご用意します! 失礼します!」


 メイリープはメイド室兼キッチンへと消えた。


「可愛いメイドですね、ミスター・トオル」

「可愛いだろ、僕の2代目のメイドも」


 メイリープと入れ違いでフランシスは執事室へ向かっていった。


「あの、ミスター・トオル?」

「どうした、メイリープ?」

「開発室でなく、ミスター・トオルのお部屋で飲まれては?」


 そう言われてようやく徹は自分が今開発室に居るのを思い出した。


「そうだな、良く出来たメイドだ、メイリープも」


 メイリープは不思議そうな顔をした。


「私の他にもメイドが居るんですか?」

「いや、何でもない。忘れろ」

「かしこまりました。では、朝食のご用意もしますね。リビングにてお待ちください」

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