第7話

高校から帰宅後、学校指定のカバンだけを無造作にリビングに置き、高校とは反対側の方角に自転車を走らせる。面接の指定は制服で来るという点のみ。人員不足なだけあってそういうのには厳しい決まりはないのだろうか。


【森町】と書道の文字で凛々しく書かれた木の看板を見つけ、あらかじめ教えられていた店の前の駐輪場に自転車を止める。外装はレトロな喫茶店を感じさせる木造建築で、三つほどある網入りガラスから見える内装は意外にも綺麗で新しいように見える。内装だけリフォームしたのだろうか。指定時間の5分前だが、中で20代くらいに見えるエプロンを着た女性と目が合い、手招きされたので重厚感の扉を開けて中に入った。


「あなた亮太君であってるわよねぇ?」


「はい。谷口亮太といいます。姉の紹介で来ました」


「知ってるわよ。里奈ちゃんほんとによく来るからもう見知ったものよー」


「え?そうなんですか?」


「えぇ。うちのバイトの子と友達みたいで、バイト終わるまでここで課題とかして待ってるのよ」


女性ははいかにも年代物そうな机を軽く撫でながら言う。


「あぁごめんね。自己紹介が遅れて。この店の店主の坂木真帆よ。バイトの子とか里奈ちゃんとかには真帆さんって呼ばれてるわ。というか亮太君姉に似て顔が綺麗ねぇ。彼女とかいないの?」


うっ。今までなら答えることに躊躇はなかったこの質問も、早希さんという好きな人ができてからでは言葉の重みが変わってくるなぁ。あれから進展もないし、ほんとどーすんだよ俺。


「いないですよ」


「そうかー。勉強とか忙しいもんねー」


すかさずフォローしてくれたその気遣いが今は俺の心に突き刺さる。


「ところで真帆さん、俺意外のバイトの人っていないんですか?」


見たところ端の方でコーヒーをたしなんでいるおじいちゃんたちしかいないので聞いてみる。


「いるわよ。今日もシフト入ってたはずだから、もう来ると思うけど」


窓から店の前を覗きこむが、まだ来たようすはない。もうシフト開始の4時だという真帆さんだが、十五分過ぎても一向に来る気配はない。


「珍しいはねぇ。あの子が休むなんてー」


「どんな人なんですか?」


「とっても真面目で美人さんよ。遅刻とか今まで一回もなかったからちょっと驚いてるわ」


そういって苦笑いを浮かべる真帆さん。


「てっきり亮太くんも知ってるんじゃないかと思っていたけど、知らないのね」


「なんでですか?」


「だって里奈ちゃんの大親友らしいじゃない。よく家にも遊びに行く関係っていってたわよ?」


え?ちょっと待て。姉の友達がやめたから俺に回ってきたはずじゃないのか?

真帆さんに聞こうと口を開いたとき、


カランカラン。

ドアのベルが鳴った。



「はぁはぁはぁ、すいません!遅れて...しまい申し訳ありませんでした!」 


少し崩れたセミブラウンの髪を靡かせながら頭を深く下げた。


一目見た瞬間に誰か分かった。いきなり現れた心を寄せる人に内心鼓動がうるさくて仕方がないが、いかにも落ち着いているように見えるように胸に手を当てて深呼吸する。大丈夫、落ち着きのある男はモテるのだと聞いたからな。根拠はないが。


「えぇ、別に大丈夫よ。早希ちゃんいつも真面目だからねぇ。それより亮太くん。この子が、もう一人のバイトの柏木早希さん。バイトの先輩になるんだから挨拶しておきなさい」


「亮……太くん?」


心当たりがあるといった様子でゆっくりと顔をあげ、俺と目が合うとこちらに指をさしながら、口をパクパクさせる早希さん。心なしか火照っているようにみえる。やはりあの事件が原因だろうか。二人きりのバイトに不安を感じながらも、熱い展開に少し期待するのであった。




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通学中に怪我をしたら不幸中の最幸だった sy @syoyu-0422

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