第5話
昼休みのチャイムが鳴り、束の間の昼休憩が始まる。俺はいつも教室で食べる。この高校は学食もあり、弁当を持って行って食べるのもよしとされているが、明人が昼練に行くため、基本的に一人で食べる俺には行く必要がない。イヤホンで動画を見ながらゆっくりと飯を食うのが俺のルーティーンだ。
周りが学食に行くのを横目に見ながら弁当を広げようとする。
「ねぇ」
呼ばれた方向に振り向くと見慣れた顔のやつがいた。
「どーした?今日は昼練ないのか?」
「いや、あるけど。ちょっと亮太に確認しておきたいことがあって」
言いづらそうに口をもごもごさせている。
「外で話した方がいい?」
「うん。出来れば」
そういうと澪は安心したようにホッと息を吐く。ギリギリ聞かれてもいいけどなるべく二人で話したかったのだろうか。
賑やかな食堂の横を通って、この時間には人が少ないだろう中庭の端のベンチに腰掛ける。
少しの間、沈黙が訪れる。
「何気に久しぶりだね」
少し懐かしくも感じる穏やかな笑顔で見上げてくる。
「そうだな。高校入って喋ることはあっても疎遠になっちゃったし」
「......ところでさ、今日明人から聞いたんだけど、亮太に好きな人出来たのって本当!?」
いきなり顔を乗り出してテンション高めで聞いてきた。その目は新しい玩具を見つけた犬のようにキラキラしている。出来れば期待通りの答えはしたくない。なぜなら澪は一度気になったことはだからだ。恋愛については特にそうで、明人に好きな人ができた時も、私は応援するよとか言って最後まで付き合ってた記憶がある。残念ながらうまくいくことはなかったが。
「まぁそうだな」
「えぇーどんな人?」
「大人のお姉さんって感じで、正直むちゃくちゃ可愛い」
「ええー!亮太って年上好きだったんだー、いがーい」
にやにやしながら、元気のいい声色で反応する澪だったが、なぜかその目は雨で少し湿った地面を向いていた。元気が取り柄だと自分で言えるほどにポジティブな澪が心なしか元気がないように見えた。最近疎遠になっていたとはいえ、三年ほどの時をともに過ごした仲間だ。それくらい分かる。
「なぁ。お前今日ここに連れてたのって、また違う要件があったんじゃないのか」
ベンチから立ち上がって、目線だけを澪に向けて言う。
「え?なんで?」
澪はただただ疑問だという風に首をかしげて俺のことを見上げる。
「いや、なんか今日元気ないなぁと思って。なんか無理してるようにも見えたから」
さっきまでの澄ました笑顔が消え、静かに目を伏せた。
「なんでそういうとこだけは気づくのよ……」
「え?そういうとこって?」
「いい、いやいやこっちの話!……あと、別に落ち込んだりとかしてないから。亮太の気のせい!」
聞こえていると思わなかったようで、僅かに頬を赤く染め、あー熱い熱いと言いながら手で顔を仰いでいる。恥ずかしがってる姿を見ると、今更だがなぜこいつに彼氏ができないのか気になるところだ。透き通るような肌に少し青みがかったストレートシャギーボブの髪、丁度いいくらいに丸みを帯びた無駄のない整った顔立ち。中学の頃からモテてはいたが、一度もオーケーしたことがないそうだ。高校になってもモテている噂は聞いていたので、彼氏ももしかしたらすでにいるのかもしれない。
「な、なによ。そんなにじっと見つめて」
「いや、高校では彼氏とか出来たのかなーって」
「はぁ!?......いるし!超イケメンな彼氏いるし!」
中庭の反対側のベンチにまで聞こえそうなくらい大声で驚き、少し逡巡した後、そのない胸を張りながら食い気味に自慢してくる。
「まじで!?また紹介してくれよ?」
「あ、当たり前じゃん」
「あ、俺次移動だから」
鼻を高くして言う澪に軽く別れを告げて、小雨が降っていた中庭を早歩きで通り抜けて帰路についた。
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