第4話
<【chapter.1 一日目・朝】
あれから一晩が過ぎたが、嵐はまだ収まる気配すら見せていない。しかし、この状況は私にとって好都合だ。怪しまれることなく館に入ることができたし、何かと理由を付けて道明晃にまつわる噂を確かめてやろう。>
「…………って、絶対怪しまれてるでしょ」
「怪しまれているのですか?」
「……」
『草』
『出た!?』
『そういやそんなストーリーだったな』
呟けば、霧崎さん。
どうしてこの人はいつも人の独り言を盗み聞くのだろう。というか、影が薄いというか、まるで気配を感じない。
「いやあ…………あはは」
「朝食の用意ができましたが、いかがいたしましょうか」
霧崎さんは、私の乾いた笑いをまるごと無視して強引に話を進めた。冷酷だ。
「いかがって?」
「食堂で食べられるか、この部屋までお持ちするかということです」
「あー、それじゃあ食堂で」
本当は一人がいいけどね。なんかもっとキャラに関わっていかないとゲーム進まなそうだし。
「かしこまりました。それでは案内しますのでついてきてください」
「はーい」
『ここでだいぶキャラ出そうだな』
『どうせ手帳に纏まるからとりあえず全員に話しかけとけ』
『空腹システムとかないから飯食わなくてもいい』
ほう?…………いや、駄目だ。なんか好感度とか下がりそうだし。…………待てよ?むしろいっぱい食べて美味しかったって霧崎さんに伝えれば好感度が上がるのでは?
そんなことを考えながら霧崎さんについて行くと、随分と立派な食堂に案内された。孤島にぽつんと佇む館にこんな食堂いる?と疑問には思ったが、それは言わぬが花というやつだろう。
そんなことよりも注目すべきなのは、その食堂にいた人たちだ。私が知っている範囲では、メグと…………私まだメグしか知らないじゃん。
とにかく、メグと知らない人が三人。一人目は、二十代前半ほどでダークブルーの髪が美しい女性。二人目は、小さな身体に黒髪を腰元まで伸ばしたどこか不気味な気配を醸し出している女の子。最後は、片眼鏡をつけた子供とも大人とも言い難いような体躯の女の子。位置はメグと二人目の子が仲良さそうに談笑しており、残りの二人はそれぞれ一人で黙々と朝食を取っているようだった。
「それでは朝食をお持ちしますので、お好きな席へどうぞ」
「…………」
『メグがいる』
『片眼鏡かっこよ』
『メグに挨拶しておこう』
『メグ』
『メグ』
選択肢は二つ。あのお姉さんか片眼鏡の子か…………コメント的には片眼鏡の子かな。
というわけで片眼鏡の子に近づいていった私は、その子の対面に位置する椅子へと手を伸ばした。
「どーもー」
「…………おや?君は…………」
「?」
「どこぞの探偵クンではないか。こんな所で会うとはね」
「はえ?」
『知り合いか?』
『誰?』
ドユコトー。
私が困惑していると、片眼鏡の子もつられるように困り顔を浮かべた。
「おいおい、忘れてしまったのかね?この世紀の大怪盗・ジョーカー様を!」
「…………じょーかー」
『ジョーカー』
『怪盗w』
『ええやんこいつ』
ジョーカーと名乗った彼女は勢いよく立ち上がり、いつの間にか羽織っていたマントをばさりと広げてキメ顔をしてウインクをしてきた。
私が茫然とそれを眺めていると、ジョーカーは少し顔を赤らめて咳払いをしながら席に座り直した。
「…………だが、ここではあくまでただの客さ。ここでは白木と呼んでくれたまえ。ああ、親しみを込めて夜葉ちゃんと呼んでくれてもよいがね」
「夜葉ちゃん」
「おお…………わかっているではないかティモちゃんや」
『ノリいいな』
『こういうあくどいの好きだよ』
『露骨』
『くさい』
コメントでは賛否両論といったところか。
まあ私的には悪くないかなー。ていうか、私が探偵っていう設定で夜葉ちゃんが怪盗なら敵同士なのでは…………なんて言うのは無粋なのかな。
「しかしティモちゃんもここを嗅ぎつけてくるとは、気が合うねえ」
「ん?あー、なんか怪しい噂があるんだっけ」
「おいおい、随分と他人事だねえ…………まあ、もちろん私の目的はお宝の方だがね」
「え、お宝もあるわけ?」
「ふっふっふ…………そこは『秘密』と言わせてもらおうかな?」
『ティモが普通に会話してるんだが』
『ほら、相手も変な子だから…………』
『類友ってやつ』
誰が類友じゃ。だいたい自称怪盗なんて痛い子…………って、二次元と張り合ってる時点でダメか。
などと一人で苦笑いを浮かべていると、霧崎さんが私の元へと朝食を運んできた。
「お待たせしました。お客様が想定以上にお越しになられているので、貧相なものですが…………」
「いえいえー」
「霧崎クン、コーヒーのおかわりを」
「はい」
朝食はベーコンエッグにパン。至ってシンプルなものだ。
私がモソモソとその朝食を口に運んでいると、霧崎さんがコーヒーを淹れに去ったのを確認した夜葉ちゃんが意味深な笑みを私に向けてきた。
「ところでティモちゃんや、ここに来ている客人とは会ったかい?」
「んいや、まだメグと夜葉ちゃんだけかな」
「ほう。…………いやなに、なんともこの館は妙でね」
「妙?」
「うむ。そもそも、一度に客人が何人も訪れるとは妙だと思わないかね?」
それはまあ、ゲームですし。
「それに加え、訪れている客人とやらも妙なのだよ」
「妙?」
「うむ。奇々怪々とでも言うべきかな、どうにも様子のおかしな人ばかりでね」
『妙?しか言えんのか』
『会話しないと好感度上がらないぞ』
『クリアする気ある?』
コメントが妙なことを言ってるな…………私が会話していないなどと…………
「例えばあそこの御姉様。彼女はたしか、エリザ君といったかな」
「エリザさんね」
「うむ。彼女は世間知らず…………なんて言葉じゃ表せられないほど常識を知らないのだよ。…………ほら」
「…………えぇ」
『www』
『怖い怖い』
『げぇじじゃん』
夜葉ちゃんの視線の先では、例の美しい女性───エリザさんが、そうめんでも食べているかのようにベーコンをコーヒーにつけてから口に運んでいるという衝撃的な光景が広がっていた。
「あれは私が吹き込んだホラなのだがね…………朝食をこの早い時間から食べるのは今いる四人だけで、私はもちろん残りの二人も面白がって指摘しないのだよ。そのおかげかずっとあんな食べ方をしているのだ」
「ひぇ…………ってあれ、霧崎さんも注意しないんだ」
「ああ、彼女は必要以上に人と関わろうとしない質でね。もちろん、客人としてはもてなすようだが」
『何かあるな』
『怪盗ちゃん有能』
『こっち選んで正解だな』
ふむふむ…………常識知らずに人を避けている人と。後、メグと一緒にいる人は多分メグみたいな人なんだろうね。
このゲーム襲撃がどうとかだったけど、もしかするとこの四人の中に殺人犯がいるのかな?怪しいとしたら…………いやいや、霧崎さんは天使。天使は霧崎さん。
私がエリザさんの方を見ながらそんな茶番を脳内で繰り広げていると、それを見て何かを勘違いした夜葉ちゃんがニヤリと笑みをこぼした。
「あらら、エリザ君のことが気になるようで」
「そりゃねえ」
「せっかくなら話してきては?探偵クンから見た客人たちの印象も聞きたいところだしね」
「…………それじゃあ」
ウインクする夜葉ちゃんに軽く頷き返すと、私は食器を持ってエリザさんの元へと足を進めたのだった。
【ティモの実況】 VR恋愛ミステリーゲーム 『狂園の孤島』 @YA07
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