第2話
「…………いや、まあ知ってたけどね。そういうフリだって」
『は?』
『持病』
『独り言不快だからやめて』
どうしよう。誰一人味方がいない。
なんて茶番は本当にどうでもよくて、結局その後色々散策してみたものの、何も見つけることはできなかった。あと低体温症で死ぬこともなかった。だいたいこういうのって目に付いたやつは嘘で見ないふりしたものが本当なんだよね。
「はい、というわけで館に着きましたー。わあ、すっごい豪華なお城ですね~」
『くっさ』
『城じゃねえだろ』
『そろそろ案件でやってること忘れてそう』
おっと。真面目にやらなければ。
「えー。これ勝手に入っていいのかな?インターホンとかないよね」
『あるよ』
『ない』
『大声で口上述べろ』
『勝手に入ったら殺される』
「いや、もう気づいたらから。こんなチュートリアル以前の段階で死ぬわけないって」
「死んでしまうのですか?」
「へっ?」
突然かけられた声に、私は素っ頓狂な声を上げた。
ていうか人がいるってことは、さっき大声で口上述べろって書いた奴、ハメようとしただろ。
「初めまして。私は当島を所有する道明晃様の使用人である霧崎でございます」
「ティモと申します。よろしくお願いします」
『かわいい』
『霧崎ルートよろしく』
『こいつ死ぬよ』
ご丁寧な挨拶をしてきたのは、純白の髪を長く伸ばした、頭上の輪っかと羽がついていないだけの天使だった。無意識のうちに口からいつもの挨拶が飛び出していたが、それがなければその美貌に茫然とすることしかできなかっただろう。というか、現実じゃありえないほど白い。髪も肌も。
「ティモ様も、この嵐の中で当島に流れ着いてしまったのでしょうか?」
「ん?あー、多分?」
「……そうでございますか。それでは、館の方へ案内させていただきますね」
『困惑させるな』
『優しすぎる』
『こいつ怪しくね?』
『嵐の中外で待機してるの、どう考えてもおかしいんだよなあ』
いーや、この笑顔は本物だね。というか、どうせお前ら全員怪しいって言うだろうが。
なんて私の心中はさておき、苦節三十分。霧崎さんの案内により、私はついに館へと入ることができた。…………いやいや、嵐の中の三十分は苦節だよ?
「ティモ様、こちら───」
「新人!?新人来たの!?」
「あ?」
『うるさ』
『お前ガラ悪ぃぞ』
『地声助かる~』
『ティモ登場』
館に入ったと同時に、霧崎さんの声を遮って私たちに駆け寄ってきた一つの人影。その声の主は、茶色の髪をボブカットにした軽快そうな女性だった。
「やっぱり新人だぁ!これで今日は二人目……どんどん面白いことになってきた!」
「メグ様。ティモ様は嵐の中で疲労してしまっているので、今はご勘弁ください」
「ふーん、ティモっていうんだ。あたしはメグ!動画配信者やってます!」
「動画配信者ぁぁ!?」
『ぁぁ!?』
『うっさ』
『ぁぁ!?』
『ぁぁ!?』
『お前じゃん』
いや、私こんな現地調査みたいな身体張ったことしないので。路線が違いますね。あと格も違うと思う。
「え、なに?そんなに驚くことだった?」
「あー、うん。びっくりボンバーって感じ」
「それはボンバーだね!」
「ボンバーボンバー」
『は?』
『会話しろ』
『共鳴すんな』
『動画配信者ってこんな奴しかいないの?』
さあ?
「ええと……お二人共、よろしいでしょうか?」
おっと、メグの対応が面倒すぎて霧崎さんのことを忘れていた。真面目な人ってこういうところで気苦労しそうだよね。頭おかしいやつの方が印象に残るし。
「霧崎さん、私個室が良いです」
「ええと……はい。もちろん個室を用意させていただきますよ」
「わーい」
『いきなり?』
『話の脈絡考えろ』
『お前そういうとこだぞ』
お前そういうとこだぞ。は禁句でしょうが。急に脈絡のない話をするくらい禁止カードでしょうが。
「あ、あたしの部屋も教えとこうか?」
「はいはい、後でね」
「おっけー!ご飯の後?」
「嵐が過ぎた後」
「ちょいちょーい!」
『お前メグのこと嫌いすぎるだろ』
『メグいいキャラしてる』
『ティモはこういうのと相性いい』
何を馬鹿なことを。というか、あたしの部屋「も」って、私の部屋は知る前提なの?絶対教えないけど。自宅にあるごみ箱の数くらい知られたくないね。
「じゃああたしはこれで!またねー!」
「……」
『返事してやれよ』
『可哀想すぎる』
『おい!メグはこれでも繊細なんだぞ!』
『メグのリスナーです。謝ってください』
メグのリスナーも見ているティモの配信です。よろしくお願いします。
「それでは、部屋の方まで案内いたしますね」
「お願いします」
なんとか一難去ったかな。…………いや、こんな言い方するともう一難とか言われそうだから、嵐が去ったって言っておこうかな。…………あー、それだとメグに部屋教わらなくちゃいけなくなっちゃうか。それじゃあ…………もうなんでもいいや。
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