第5話

「……」


「……」


「……むむ」


クロン、メルリーン、ジライの3人は一室で瞑想をさせられていた。


そう。ここは目印の1つ。一番近い目標の場所である。


クロンとメルリーンは瞑想に集中しているが、年長のジライはイラついていた。


「というか何故、ワシやメル様までやらないといかんのじゃ!」


ジライは叫びながら勢いよく立ち上がる。


そこに奥の部屋から老婆が現れ、ジライを杖で叩いた。


「何をするババアめ!」


「お主もジジイじゃろうが」


老婆は杖でジライを押さえながら、クロンとメルリーンの方を見た。


「うむ、なかなかの集中力。たいしたものじゃ」


2人の様子を確認すると老婆は手を叩いた。


「二人とも、いったんここまでじゃ」


その一言に二人は閉じていた目を開ける。


「ふう……」


メルリーンが一息つく中、クロンは老婆を見て訊いた。


「まさかこれで終わりじゃないよな、婆さん?」


「もちろんじゃ。こっちへ来なさい」


老婆はクロンを部屋の外に誘うと、また別の小屋の前に立つ。


「感じるかね?」


老婆は二人に尋ねる。


「なんとなくですけど……」


「ああ、嫌な気配が漂っている」


老婆は頷くと、クロンに中に入るよう手をかざす。


クロンも頷き、早速部屋に入ろうとする。


「クロンさん。わたしも――」


「いや、あなたはここで待ちなさい」


「え……?」


先ほどまでは瞑想を一緒にやっていた。


それを止められメルリーンは戸惑う。


「ここはね、己の心の修行場。この部屋は特に厳しくてね。二人同時なんて特に危ないから」


そう言って老婆はメルリーンを止めつつ、クロンに入るよう促した。


「行ってくる」


心配そうに見つめるメルリーンに、クロンは一言声を掛けると中に入っていく。


「その部屋の中でも瞑想を保っていられたら合格さ」


老婆はそう言うと、クロンが入った部屋をそっと閉めた。





扉が閉じクロンは部屋に一人になる。


「今のところ普通の部屋だが……」


クロンは周りを確認する。お香がたいてあるがそれ以外は何もない小さな部屋。


「とりあえず、やるか」


クロンは姿勢を整え瞑想に入る。


「……」


最初の数刻。静かな瞑想が続く。


(今のところ何も感じない。だが闇の力を制御する試練の1つ。ただで終わるわけが――ぐっ!?)


クロンの意識に急に襲い来る何か。


(ァァ……)


クロンの脳内に響く苦しみの声。そして……。


(ヨクモ……ヨクモ……)


「う、うわあああっ!!」


クロンにしか見えない何かが、クロンの脳内に映りこむ。


それにクロンは驚き叫び、瞑想を解いた。


「はあっ……はあっ……」


クロンはいつの間にか全身に汗を浮かべていた。


「おいおい……。タチの悪い試練だな、これは」


汗をぬぐい、クロンは再度、瞑想に入る。


だがこれも数刻の後、クロンの脳内にいろいろな苦しみが流れ込んでくる。


「ぐ……はっ。はあっ……」


またも途中で瞑想を解いてしまい苦しむクロン。


クロンの叫びが聞こえたのか、部屋の外からメルリーンが叫んだ。


「クロンさん!? 大丈夫ですか?」


「大丈夫だ、心配するな」


クロンは強がりつつ言った。


(俺の脳内に響くこの声。これはやはり……)


そう。それはクロンの村の人たちの声。


(一族の、俺への恨みなのか……)


それが本当に村人たちの恨みの声なのか、それとも幻聴なのかはわからない。


だがクロンは、迫りくるその声たちに、とても瞑想どころではない。


(く……)


何度やっても途中で妨害をくらう。


クロンは少しずつ確実に疲弊していた。


(ふう。落ち着け……)


クロンが何度目かの瞑想に入る。


(……)


(ァァ……)


(来たっ)


クロンは身構える。


(クルシイ……クルシイ……クロン)


(!)


クロンの脳内に響く少女の声。


(レッカ……)


クロンの記憶の少女、レッカ。


まるで走馬灯のように、クロンの記憶内のレッカが映る。


だがそれがきっかけだった。


(違う! これはレッカじゃない!)


クロンの意識が瞑想に戻っていく。


(ありがとう。レッカ)


それからしばらく瞑想は続いた。


「あい、そこまで!」


声とともに、部屋の戸が開かれる。


クロンはまるで数日ぶりの日を浴びるように外に出た。


「クロンさん!」


メルリーンが駆け寄る。


クロンは珍しく、甘えるようにメルリーンの方に座り込んだ。


「ようやったのう」


老婆がねぎらう。


「まったく、酷い試練だよ婆さん……」


クロンは苦笑しながら老婆に呟いた。


「しかし、最後は急に集中できていたようじゃが?」


「ああ……」


クロンが最後に聞いた声。少女レッカの嘆きの声。


「レッカ……いや本当は一族の皆もだ。誰も恨み言や嘆きを言う人はいない。レッカの声がそれを思い出させてくれた」


クロンが笑顔を浮かべる。


(……?)


その表情に、メルリーンは嬉しくも暗い感情を抱いた。


それがなんなのか彼女はわからない。


「さて、それじゃあクロン。来なさい」


老婆はクロンを自身の前に立たせると、まじないを唱える。


「うむ。これが私の試練を突破した証明じゃ」


「ありがとう、婆さん」


クロンは礼を言うと、地図を開いた。


「次は……ここか」


印を確認すると、3人は次への旅路へ向かう。


(しかし、最初でこれか……。奴に復讐する力。並大抵じゃいかなそうだ)

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異世界エイナール・ストーリーⅡ 闇剣士クロンの復讐記 七霧 孝平 @kouhei-game

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