第38話 照れ隠し

 数日後、完全復活した二人はテントにて支度を整えていた。俺は二人が元気になったことを嬉しく思いながらタオルを洗濯している。


 「よかったよかった。一時期は本当に苦しそうで見てるこっちも辛かったからな」


 俺は微笑びしょうする。二人が無事で本当によかった。


 「マグリスさん! 看病してくれて本当にありがとうございました!」


 ビルデがこちらに向かって走ってくると、俺に声をかけてきた。黒色のワンピースを着ていて、いつも通りの笑顔を浮かべている。


 「どういたしまして。ビルデも最後のあの魔法のおかげで助かった、ありがとうな」


 「いえいえ、先にマグリスさんが私を触手から逃がしてくれたからですよ」


 ビルデは俺に笑いかける。そして俺の側に来ると、洗濯を手伝ってくれた。本当にかけがえのない、優しい子だな。


 *


 すべての作業が終わり、俺達はアスタルテに移動しようとしていた。 


 「テント自体はそのままにしておきましょう。あたしが奴なら狙うのは今がラストチャンスだと考えるはず。むしろ私達が全快するまでに殺しに来なかったのが不思議よ」


 「それは俺も気になった。あのときなら楽勝だったろうに」


 なんとなく予想するなら準備に時間がかかったという辺りだろうな。

 フェイがこの間あのモンスターが人造だと言っていたが、今度もまた人造モンスターを造って襲ってくるのかもしれない。


 「まあいいわ。それじゃ二人ともあたしの手を握って」


 俺達はフェイの手を握る。フェイは炎で俺達を包み込むと、次の瞬間俺達はある家の中に瞬間移動していた。


 「え、ここどこですか?」


 「そういや紹介してなかったわね。ここはアスタルテにあるあたしの別荘よ」

 

 フェイの別荘は緑に囲まれた場所にあった。見た目はとても派手で、あちこちに装飾品が置いてあった。


 「まあ見ての通り、実は宿屋に泊まる必要なかったのよね。あたしは宿屋で泊まりたからつい黙ってたの、ごめん」


 「いや、別荘に誰か招待するのも気を使うだろうし構わないよ。いい家だな」

 

 そういえばこいつは俺達と会ったときは清掃員をやってたんだっけか。元々この街で暮らしてたからそりゃ家くらい持ってるか。


 「ふふ、あんたの場合本当に褒めても何も出ないわよ」


 フェイはそう言って焼き菓子を俺に渡して――――くれなかった。


 「酷えや、これが格差社会か」


 「ふふ、冗談よ。ほら」


 フェイは悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべ、今度こそ俺に焼き菓子を渡す。


 「もー、フェイさんはマグリスさんに悪戯ばっかりしてますよね。もしかしてマグリスさんのことが好きだったりするんですか?」

 

 「いや、ドラゴンと人よ? 友情を求めはするけど恋愛は――しないわよね?」


 フェイは何故か少し顔を赤らめる。ビルデはそれを見てニヤニヤしていた。


 「完全に否定しないってことは少なからず好意はあるってことですよね?」


 「あーうるさいうるさい。そういうビルデはどうなのよ?」

 

 「私はマグリスさん大好きに決まってるじゃないですか。何回も命を救ってもらったし、好きにならない理由がないですよ」


 ビルデはさも当然といった口調で話す。何やら変な話になっているが、俺はどうすればいいんだ?  


 「……あんたに聞いたあたしが間違いだったわ」


 「でも私はフェイさんのことも大好きですよ。私達のために色々考えてくれて、親切にしてくれて。本当に感謝してます」


 「あらそう。ありがと」


 フェイはそれだけ言ってそそくさとその場から退散した。間違いなく照れているのだろうが、ビルデは「えっ」と言って途方に暮れていた。

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