第39話 襲撃

 俺達は現在、アスタルテを歩いていた。本当は狙われていない俺だけ一人で出歩く予定だったが、二人が猛反対したのでこうなった。


 「マグリスさん、これおいしいですね!」


 俺の横ではビルデが肉を頬張っている。久しぶりの外出でテンションが上がっているらしく、とても楽しそうだ。


 「それはよかった。気をつけて食べろよ」


 俺達は外に出るまで知らなかったのだが、今日はここアスタルテで祭りが行われている。ビルデのテンションが高いのはそれも関係しているだろう。


 ただ、一つ気になることがあるとすれば――




 「この状況、襲われそうよね」 


 そう、そこだ。祭りというのは非日常だ。ゆえに祭りではトラブルが起きやすいし、起こしやすい。


 「そうだな。絶好の襲撃日和だ」

  

 俺とフェイは周囲を警戒しながら街を見て回る。油断はできない。


 「その通りだ。まったく、あまりこの私を怒らせるな」


 一瞬、俺は誰が話しているのか分からなくなった。このパーティーに俺以外男はいない。では誰が喋っていたのか。


 「誰だお前。これ以上近づいたら容赦しないぞ」


 俺は横から口を挟んできた男にハンマーを向ける。同時にフェイは炎を全身に纏って戦闘態勢をとった。


 「そう警戒するな。私は話し合いがしたいだけだ」


 「話し合いだって? 先に殺そうとしてきたのはどっちだ」


 俺は会話の内容からこの男があのダービスだと判断し話しかける。これは間違い無いはずだ。


 「おや、気づいてたか。まあそれも含めてお話しようじゃないか。ついてこい」


 男は俺達に背中を向けて歩きだす。一見隙だらけに見えるが、今ここで攻撃すれば悪者は俺達だ。


 「逃げますか?」 


 小声でビルデが俺に話しかけてくる。俺は首を横に振り否定した。

  

 「駄目だな。こっちの動向は完全にバレてる。次は容赦なく殺されるぞ」


 俺は冷や汗をかく。この男からは異様な雰囲気が漂っている。下手な抵抗は危険だ。


 俺達は男に連れられ、アスタルテの外に出る。それからしばらく歩くと男は立ち止まった。


 「ここでいいだろう。さて、名前は言わずとも分かるかな?」


 「……ダービス。それがあんたの名前でしょ」


 「その通りだ化け物。でもお前に発言権はない。あるのはマグリス、あなただけだ」


 この野郎、フェイを化け物呼ばわりしやがって! ――落ち着け、まだ戦闘には早い。


 俺は怒りをなんとか抑える。今怒りに任せて攻撃すれば、二人に危害が及ぶかもしれない。


 「……それで、何の話だ? 壷なら買わんぞ」 


 「単刀直入に言おうか。私にそこの悪魔の譲渡をお願いしたい。代わりにそちらへの攻撃をやめることを誓おう」

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