第36話 着せ替えと黒歴史発掘ショー

 夜、俺は再び二人の看病をしていた。二人は汗がダラダラと出続けていて、俺はしょっちゅうタオルを取り替えた。


 「マグリスさん……服を着せてくれませんか?」


 俺はビルデの額の濡れタオルを取り替える時に彼女に声をかけられた。


 「分かった。少し待ってろ」


 俺はビルデを抱き起こすと、タオルで彼女を包み込み、水着を脱がす。

 ビルデの肌の感触が指を通して伝わってくる。普段は冷たいはずの肌も、今は熱く感じた。

  

 「ん……」


 ビルデはくすぐったいらしく、声を漏らした。彼女はお腹を触られるのが苦手らしい。

 続けて俺はビルデに服を着せていく。脱がせる時と違い、今度はほぼビルデが作業をしていた。俺はビルデの腕に服を通し、ボタンを留めたぐらいだ。


 「ありがとうございます。うぅ……着替えすらまともにできないなんて」

 

 「うーん、こればっかりはしかたないな。辛いだろうが我慢してくれ」


 *


 次の日、フェイは体を引きずりながら、モンスター大量襲来の件の犯人を特定しようとテーブルにやってきた。


 「分かったわ。犯人はダービス・ホロヴィッツ。あんた、聞き覚えある?」

 

 「んー、どっかで聞いた気がするが直接関わった覚えはないな」


 俺は記憶の糸を辿るも、どうも引っかかって出てこなかった。なんか本とかで名前を見た気もするが、思い出せない。


 「そう。実を言うと、あたしもさっぱりなのよ。念の為聞くけどビルデは?」


 「いえ、聞いたことないですね。そもそも私が覚えてる名前なんてマグリスさんとフェイさんしかいませんから」


 ビルデは肩をすくめる。困ったことに、誰も聞き覚えのない人物が登場してきてしまった。

 

 「ちなみに魔法の対象者はマグリス、あんただったわ。まあ情報としての価値はないに等しいけどね」


 「そうだな。位置情報とかは分からないのか?」


 「残念ながら無理ね。でも、マグリスの記憶の片隅にあるならやりようはあるわ。マグリス、頭を近づけて」


 「おう、分かった」


 俺はフェイに言われた通り頭をフェイに近づけると、フェイは両手で俺の頭を掴んできた。


 「うわあぁぁー!!」


 突然、目の前の光景が急激に変わり始めたので俺はつい叫んでしまった。俺の過去の記憶が視界に映り、それがどんどん移り変わっていった。


 「怖いかもしれないけど我慢して。今あんたの記憶を掘り起こしてる最中だから」


 「うひー、できるだけ黒歴史見ないでくれよ?」


 「……黒歴史というのはモンスターにビビり散らかして戦う前に気絶したことかしら。それとも――」


 「やめろ、それ以上言うな!」


 クソっ、ばっちり見てやがった。頼むからこれ以上変なの見つける前に終わってくれー!


 俺はひたすら祈りながらフェイの作業が終わるのを待った。気のせいか、目の前の光景が変わる速度が遅く感じた。


 「ふんふん、なるほど。仲間に裏切られるとは可哀想ね」


 「お前本当に真面目に調べてるか!?」


 「調べてるわよ。でもつい見えちゃったんだもの」


 駄目だ、こいつまだまだ変な記憶引っ張り出してくるぞ。


 それから数時間、俺はずっとフェイに記憶を見られ続けた。その間に何個もの黒歴史が発見され、フェイの作業が終わる頃には俺の心は完全に折れていた。

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