第35話 看病

 解毒剤を飲ませてから数時間。俺の介護によって二人は話せるぐらいには回復してきた。


 「あー、ようやく体が復活してきた。マグリスもビルデも助けてくれてありがとう」


 「私は最後だけですよ。そもそも私を庇わなければフェイさんは逃げられたでしょうし」

 

 二人はまだ苦しそうに息をしながらも話をしている。俺はビルデの額に触れると、まだ熱があるようでとても熱かった。


 「そんなのどうでもいいわ。毒で辛かったのによく頑張ったわね」


 フェイはビルデを抱きしめ、額にキスをする。ビルデは涙をこぼし、フェイを抱き返した。


 「さて、マグリス。今回の襲撃は人為的な物よ。見ての通り、殺意マシマシのね」


 フェイはビルデから離れると、俺に真剣な眼差しを向けてきた。


 「そのようだな。しかし、本当にどこの奴がこんなことしたんだ?」

 

 「まだ分からないわ。まあ傾向を見るにモンスター大量襲撃と同じ犯人でしょうね。私達を的確に事故死させようとしてきてる」


 「とんだクソ野郎だな。早く安全に暮らせるといいんだが」


 俺は頭をかく。おそらく次なにかに襲われることがあるなら、その時は死を覚悟した方が良さそうだ。


 「これからどうしましょうか。もう居場所はバレてますし、ここに居ても危険だと思いますが」


 「いや、むしろここにいるべきよ。どうせ移動してもすぐ見つかるわ。ならいっそ犯人が分かるまではここにいるべきよ」 


 「俺はフェイに賛成だ。お前らも病み上がりで当分まともに動けないだろ」


 多少回復したとはいえ、峠を超えただけだ、まだ完全回復には程遠い。


 「そうですね。数日はマグリスさんに看病をお願いしないと駄目そうです」


 「任せとけ、看病なら昔よくやってたから」  


 俺はビルデに笑いかけると、濡れたタオルを二人の額に乗せた。

 そしてそっとビルデの体を起こし、ビルデの汗を拭こうとする。


 「ビルデ、ちょっと背中失礼するぞ」


 俺はビルデの服を捲くると、ビルデの背中をタオルで拭いていく。彼女の背中は汗でびっしょり濡れていて、光に反射していた。


 毒を食らったとき、大事なのは毒を体外に出すことだ。

 俺の持っている解毒剤は毒性を弱める効果しかないので、二人の中にはまだ毒が残っている。早くしなければ。


 「ありがとうございます。その……前もお願いします。手が痺れて自分じゃできそうにないので」


 「分かった。今やる」


 俺はビルデの前に立つと、お腹周りをタオルで拭いた。彼女は苦しそうに目をつぶっていて、俺は心が痛んだ。


 「よし、次はフェイだ!」


 俺はフェイの方に行くと、フェイを起き上がらせた。フェイの背中はとても熱くなっていて、タオル越しからでも俺は何回か手を放してしまった。


 「悪いわね。前もよろしく」


 フェイは顔こそ普通そうに見えるが、口数が減り、壁にもたれ掛からないとまともに起きれないようだった。


 フェイの前を拭くのは少し恥ずかしかったが、それが理由で躊躇することはなかった。くだらない感情より彼女の健康が最優先だ。


 「よし、それじゃ二人ともじっくり休め。着替えたくなったらサポートするからいつでも言ってくれ」


 俺はそう言い残して外に出ると、防御魔法を徹底的に張る。俺の魔力は少ないので複数回に分けて、次こそは突破されないように。


 「あのモンスター、毒以外はそこまで強力じゃなかったんだよな。別の誰かがバリアを破壊したんだろうが、強化するに越したことはないよな」


 俺はあの触手モンスターを思い出す。あれは触手の速度も力もそこまで強くなかった。

 ただ問題だったのはアビリティを貫通する毒。あれだけがとんでもなく強力だった。もしあのとき俺まで捕まっていたら、確実に全滅していただろう。

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