第27話 日常と非日常

 次の日、俺が起きるとビルデの顔が目の前にあった。ビルデはまだぐっすり寝ているようで、くすぐったそうに体を震わせている。


 「マグリスさーん、もう少し待ってくださーい」


 「寝言か。どんな夢見てんだ?」


 俺はそっとベッドから抜け出そうとしたが、ビルデは寝ているのに俺をガッチリと掴んで放してくれなかった。


 「うおっ! 困ったな、起こすしかないか」


 俺はビルデをゆさゆさと揺らし、彼女を起こそうとする。ビルデはうーんと呻きながら目を擦り、ようやく目を覚ましてくれた。


 「あ、おはようございます……スゥ」


 「寝るなー!」


 俺は激しくビルデを揺らし、彼女を無理矢理叩き起す。ちょっと可哀想だが容赦はできない。


 「うぅ……頑張って起きようとしてたのに!」


 ビルデは少し怒って頬を膨らませてきた。俺はそれを受け流すと、ビルデの腕から脱出する。


 「ごめんごめん。それじゃフェイ起こして飯食うぞ」

 

 俺はフェイのベッドまで近づき、フェイを起こそうとした。


 だが次の瞬間、フェイの蹴りが俺の首にクリーンヒットし、俺は吹き飛ばされた。


 「な、なにするんだよフェイ!」

  

 「ごめん、つい反射で攻撃しちゃった。怪我はない?」

 

 フェイはベッドから跳ね起きると、俺に駆け寄ってくる。フェイが下着姿で俺のそばまで来たので、俺は慌てて目を閉じた。


 「大丈夫だ、大丈夫だから早く服を着ろ!」


 「あー、この姿は服着てないと駄目なの面倒くさいなぁ。すっかり忘れてたわ」


 フェイはそう言ってベッドから脱ぎ捨てた服を拾い、素早く着替えた。


 そういやドラゴンは常に裸か。そういう奴に恥じらいを求めても無駄な気がしてきた。


 「気をつけてくれ。俺の神経が擦り減るから」

 

 こんなくだらないことで戦闘のときに集中が鈍ったら馬鹿らしすぎる。だから本当にやめてほしい。


 「さて、皆揃ったことだし食べますか!」


 俺達はビルデがスキル「花創作」で作った椅子に座り飯を食べる。保存食は決して美味しいとは言えなかったが、やはりビルデはニコニコしながら食べていた。   


 「さて、できれば今日中にマリンロードに着きたいが……二人とも調子はどうだ?」


 「問題ないです。体力は十分回復しました」


 「大丈夫よ。ここから先はモンスターも少し弱くなるし、今回は経験のために潜伏なしで進むのをオススメするわ」


 「そうだな。まあ危険そうならすぐ潜伏することにするか」


 俺はフェイの提案を受け入れる。何かあった時に弱ければ何もできないからだ。


 そうして俺達は徒歩で道を進んだ。今のところまだモンスターは現れていない。


 「……来たな。ビルデはある程度撃ち落としてくれ。フェイは背中を頼む」


 前からメリケンゴリラの群れが現れ、俺達は戦闘態勢に入る。


 メリケンゴリラは指に骨をつけたゴリラで、パンチがとても強力だ。複数体を相手するのは容易ではない。


 「分かりました。ウォーターボム!」


 ビルデが放った水はメリケンゴリラに当たると爆発し、彼らの体を貫く。

 彼らは数体倒れたが、残りの数体はこちらに突っ込んでくる。

 

 俺はハンマーを振り回し、ハンマーをどんどん加速させていく。そしてゴリラが間合いまで入った瞬間、俺は飛び出しハンマーをお見舞いする。


 ゴリラは一瞬にして肉片へと変わり、辺りに散らばる。フェイはそれを燃やして処理し、骨だけ回収する。


 「ひとまず片付いたわね。でもまだまだ来るわよ」


 フェイがそう言った途端、またしても大量のモンスターが現れた。しかも全方位から。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る