第26話 契約通りこして依存

 それから俺達は影泳の効果が切れたあとは休憩し、戦闘しながら進むということを繰り返していた。


 しかしそれも限界が来て、ビルデと俺は既にクタクタになってしまっていた。


 「ハァハァ……さすがに疲れましたね。夜も近づいてきましたし、今日はこれ以上進むのやめにしませんか?」 


 「そうだな。じゃあここで野宿だな」


 俺達は周囲の安全を確認し、防御魔法を張ると芝生へと転がった。フェイは疲れているようには見えないが、俺達と同じように転がっている。


 「あぁ、宿屋のベッドが恋しいです……あ、そうだ!」


 突然ビルデが跳ね起きると、大急ぎで彼女のリュックを漁り始めた。


 「何やってんだ、ビルデ?」


 「思いついたんです、これさえあれば……」


 ビルデは一輪の花を手に持つと、その花でベッドを作り出した。彼女のスキル「花創作」の効果だろう。


 「おぉー!! いいわねそれ、あたしのも作ってくれる?」


 「いいですよ! 二人の分も作ります!」


 ビルデはウキウキしながらベッドを作り、俺達の目の前に置いた。そしてその勢いで花でテントまで作成してしまった。


 「よし、これで当分は安心ですね! どうです私のこのスキル!」


 「ああ、凄いなこのスキル! これなら安心して休めそうだ、ありがとうビルデ!」


 「えへへ、もっと褒めてください!」


 ビルデは顔を赤くして自身の頭を撫でる。その姿はとても可愛くて俺はほっこりした。


 「うん、凄いよ。危ない人が近づいてきても守れるだろうからね」


 フェイはビルデの頭を撫で、焼き菓子を彼女の口に突っ込んだ。そして彼女を抱き寄せ、そのままベッドへと拉致した。


 「ちょ、ちょっとフェイさん? 何やってるんですか!?」 

 

 ビルデはフェイの奇行に驚き抵抗するが、フェイはビルデを離そうとはしなかった。


 「いや、可愛すぎてつい褒め殺したくなっちゃって。ごめんね、嫌だった?」 


 「そんなことないです! もっとお願いします!」


 俺は何を見せられているのだろうか。楽しそうだけど、完全に俺は蚊帳の外だぞこれ。


 俺は邪魔するのも悪いなと思い、一人でこっそり外に出て星を見ることにした。

 

 「俺は二人のなんの役に立てるんだろうか」


 俺はぽつりと呟く。彼女達は俺よりはるかに有能だ。 


 ビルデは経験こそ俺に劣るが、勇敢で潜在能力も高い。フェイは経験も実力も圧倒的だ。本人曰くこれ以上の成長は見込めないらしいが、それでも経験の差はくつがえらない。


 「修行の量増やすか。それしか方法ないよな」


 俺はそう言ってハンマーを振り回す。俺は二人と対等でありたい。そのためなら努力を惜しむ気はない。


 「あ、いました! 急にいなくならないでください、怖いじゃないですか!」


 俺は声をかけられ後ろを振り返ると、そこにはビルデがいた。どうやら褒め殺しからは解放されたらしい。


 ビルデはなぜか涙声で、こちらに向かって走ってきた。俺はハンマーの動きを止め、彼女の方を向いた。


 「すまんな。俺はどこにもいなくなったりしないさ」

  

 俺はそっとビルデを抱きしめる。するとビルデも俺のことを抱き返してくる。


 「ほら、周りをよく見てください。モンスターが私達のことを狙ってるじゃないですか。一人で外に出ないでください」

 

 俺はビルデに言われて辺りを見回す。防御魔法に守られてはいるが、たしかにモンスター達がこちらを虎視眈々こしたんたんと狙っていた。


 「ごめん。戻って寝るから放してくれ」


 「放しません。一緒に寝てください」


 ビルデは俺を彼女のベッドに連行し、無理矢理俺をベッドに寝かせた。ビルデは俺を掴んだままベッドに潜り込むと、あっという間に寝息をたてはじめた。


 「……なんか、もはや依存されてる気がするなぁ。まあ、いいか!」


 俺はビルデの体の冷たさを感じながら、ゆっくりと眠りについた。

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