第24話 風呂ごときで使っていい魔法ではない
俺達は買い物を終えると、宿屋へと戻ってきた。既にビルデも戻ってきていて、俺達は旅の準備をしていた。
「よし、一通り準備は終わったな。後は装備の手入れをするだけだ」
「お疲れ様です! それにしても、海の街はどんな感じなんでしょうね?」
「なんか優秀な戦士が多いとは聞いたことがあるわ。あとはマリンロード限定の話だけど、ギルドとは別に独自の自治組織があるらしいわ」
ビルデがフェイの話を熱心に聞いている中、俺はハンマーの手入れをする。フェイの話は小耳にはさむ程度にしか聞いていない。
「あそこは治安も悪いけど、まあ困ったことがあればマグリスに全部押し付ければいいのよ」
「ん? 待てフェイ! 今のは聞き捨てならないぞ!」
俺は左から右に流れそうになる発言を慌てて掴み、ツッコミをいれる。
「ちぇ、聞いてたのね。でも実際ビルデに何かあったら助けるのはあんたよ。あたしは無闇には介入できないから」
「それは当然承知してる。お前の正体がバレたら大変な騒ぎになるからだろ」
もし街にドラゴンがいたらどうなるかは分かりきっている。間違いなく冒険者は名誉を求めて突撃し、他の人々は逃げて大パニックになる。
「そうよ。もちろんあんた達に命の危険が迫ってたら躊躇いなく全力を出すわ。でも基本は手を抜かせてもらうわ」
「分かった。それじゃ俺は風呂入ってくるわ」
俺はハンマーの手入れを終えると、ハンマーを壁に立てかけ立ち上げる。そして脱衣所で服を脱ぎ、風呂に入った。
風呂は公共浴場がほとんどだが、この街アスタルテでは個室に風呂が整備されている。
「ふぅ……疲れたな。ここ数週間で一気に環境が変わったし無理はないが」
「そうですねー。あ、背中流しましょうか?」
俺がため息をつきながら風呂を堪能していると、突然ビルデが俺の横で寛いでいた。俺は驚きのあまり飛び退き壁に頭を打ち付けた。
「何やってたんだお前! この前怒ったの自分でも忘れたのか!?」
俺は頭の中でこの前ビルデに怒られたことを思い出す。あれが駄目でなぜ俺と風呂に入るのはいいのか。
「大丈夫、タオルは巻いてますから。それにこの前怒ったのは公共の場だったからです」
「ということで、あたしも一緒に入ってもいい?」
ビルデの声と合わせてドアが開き、フェイが中に入ろうとしてきた。
フェイはタオルすらも巻いておらず、更には手に酒まで持っていた。
「駄目だフェイ。お前は
「えー、なんでよ。じゃあいいよ、元の姿に戻って入るから」
フェイはそう言って体を変化させて俺を脅してきた。
「や、やめろ! 分かった、入っていいから大人しくしてくれ!」
「よしきた。ビルデ、もう少しそっち寄って」
なんだここ、地獄か? ビルデだけなら彼女が小柄だから平気だった。だがフェイにまで入られたら狭すぎる!
「狭い狭い狭い! フェイ、酒はあとにしてくれ、潰れちまう!」
俺は思わず悲鳴を上げる。そもそも子供のフェイがいる前で風呂で酒を飲むなと声を大にして言いたい。
「仕方ないなぁ。空間を増やせばいいんでしょ?」
フェイはいきなり自らの小指を切断し、空中に立体の魔法陣を描き始めた。
「待て、お前さっき目立つとやばいって自分で言ってたよな?」
「大丈夫、これ誰にもバレないから。夢を現実に、世界は我が物に。リメイクワールド!」
「待てなんだその厨二病全快の魔法は!?」
フェイが呪文を唱えた途端、一気に風呂が大きくなった。俺は慌てて風呂の窓を見たが、部屋自体が大きくなった様子はなかった。
「さっきからうるさいわよ、マグリス」
「そうですよマグリスさん。静かにしてください」
「これ、俺が悪いのか?」
俺は
「あ、私も魔法使いますね。イリュージョン!」
混乱している俺を他所にビルデが呪文を唱え、辺りを森へと変化させる。おそらく幻覚魔法だろう。
幻覚魔法はかなり難しい部類だ。それを生後約一ヶ月がやってのけたというのだ。
「クソ……怖えよお前ら」
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