第23話 買い物

 「さて、そろそろこの街ともおさらばするか。二人は次どこか行きたい場所あるか?」


 「行きたいってわけじゃないけど、一つ提案があるわ。ここから北に進むとあるドラゴンの住む洞穴があるんだけど、そいつはめちゃくちゃ物知りなの。だからそいつに会いに行かない?」


 フェイが言いたいのは恐らく悪魔についてそいつが知っている可能性が高いということなのだろう。


 「いいなそれ。距離はどのくらいだ?」


 「具体的な距離は分からないけど、多分途中で街に寄った方がいいぐらいには遠いわ」


 「なるほど、じゃあそうするか。ビルデは異論あるか?」


 俺はビルデの方を見て尋ねる。彼女もフェイの発言の真意には気づいているはずだから反対はしないだろうが。


 「もちろんありません! 是非ぜひ行きましょう!」


 「よし、決定だな。それなら寄る街はここにしよう」


 俺はそう言って地図上にある街を指差す。名前はマリンロード。海に近く、漁業が有名な街だ。


 「それで、いつ出発しましょうか?」


 「明後日だな。その間に何かやり残したことがあればやっときな。俺は消耗品を集めとく」


 「分かりました。それじゃ今日は洋服でも買ってきます!」


 ビルデはそう言ってウキウキしながらかばんを身に着ける。既に行く気満々だ。


 「あたしは暇だしあんたについてくわ。荷物持ちなら任せて!」


 「おお、それは助かるな。今日は結構買い込むから頼んだ」


 もちろん俺も持つが、今回の旅はマリンロードを経由しても遠い。多く買うに越したことはないだろう。


 こうして俺達はビルデと別れ、買い物へと出かけた。


 俺はビルデ以上にフェイと関わりがまだ薄い。ここで打算的にも感情的にも距離を縮めたいところだ。


 「まずは保存食だ。作るなり買うなりして集めるぞ」


 「オーケー。ビルデのためにもガンガン行きましょう」


 まず俺達は携帯用のパンを買いにパン屋へ行く。そこで俺達はパンを揃えると、ついでに昼食用のパンも買った。


 「早速荷物が増えたわね。あんたそんなハンマー持ってて重くないの?」


 「んー、意外と軽いんだよこれ。持ってみな」


 俺は背中に担いだハンマーをフェイに手渡す。フェイはそれをひょいと持つと、ほんの少しだけ振った。


 「なるほど、いい金属を使ってるわね。ミスリルと言ったところかしら」


 「当たりだ。もう少し重い方がいいのは事実だが、普段持つならこれぐらいじゃないと体がもたない」


 ミスリル。軽く硬い金属で、多くの武器で使われるが、ハンマーにはあまり使われない。


 「だろうね。実際あんた魔法で重量変化させてるでしょ」


 「そこまでバレるか。恐ろしいな、知識量が」


 「まあその辺はスキルも使ってるから。自慢にはならないわよ」


 フェイはそう言って自身の長い髪を撫でる。口ではそう言っているが多分少し照れているのだろう。


 「あんたの方こそ最近の冒険者としては優秀ね。冒険歴も長くはないでしょ」

 

 「三年だな。パーティーを組んだのもこれで三回目だ」


 裏切られたパーティーに入る前、俺は二年ほどあるパーティーに所属していた。結局そのパーティーは不運な事故で解散せざるを得なかったが。


 「へぇ。中々大変そうな感じね」

 

 「まあな。フェイは昔何やってたんだ?」


 俺はそこがかなり気になっていた。ドラゴンは滅多に姿を現さない。そんな彼彼女らがどこにいるのかは正直知りたい。


 「あたしは隠れたり人間に化けたりしながら遊んでたわ。あんたみたいな冒険者とも関わったこともある」


 「なるほど。なんだかフェイらしいな」


 俺はそう言って微笑む。フェイは退屈が嫌いだ、きっと常に楽しもうと努力してきたんだろうな。

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