第13話 もうひとつの修羅場


 夏休みの高校生にとって逃れられないもの。


 それは宿題。


 夏休みの宿題。


 9月2日の夏休みも終わって2日経ったタイミングで、俺は夏休みの宿題に追われていた。



「うおおおおお! 完全に忘れてたああああああ!」



 なぜ夏休みの宿題を急いでやっているのかというと、もちろんやっていなかったからである。


 なんでやらなかったのか?

 やらなくてもいいと思っていたからだ。


 ループの設定とか全然活かせてないせいでもう忘れてしまった人もいるのかもしれないが、俺は夏休みが繰り返しのループにかかっていたのである。


 繰り返しの中で、最初の頃は今回がループの終わりかもしれないと思っていた。

 だから、夏休みの宿題とかもやっていたのだ。


 しかし、何回目からか終わらないと感じ始めた俺は、後先のことを考えずに行動し始めた。

 

 複数人の女の子を口説いたこともその一環。

 後のことを考えなかったからだ。

 どうせ次のループでなかったことになるんだから、という風に考えていた。


 そんな状態の人間が、夏休みの宿題なんてやるはずがない。

 今回もやってなかった。


 そしてループが終わって、いま修羅場(夏休みの宿題的な意味で)。


 まあ、実は内容そのものは別に難しくはないんだけどな。


 俺はループの最中、ときどき勉強を頑張っていやっていたこともある。


 今なら高校3年生程度の内容なら簡単に解くこともできる。

 高校1年生の内容程度なら別に解くことは難しくないのだ。


 だがいかんせん量が問題だった。


 本来なら夏休みの1.5か月を使ってやるような量だ。


 もちろん教師も生徒が途中でさぼることを見越しているはずだ。

 本気で1.5か月かけなきゃいけないような量を出してくるわけじゃない。

 

 2~3週間ほどでやることを想定しているのだろう。


 とはいえ2~3週間だ。


 かなりの量だ。


 これを1日で終わらせなきゃいけないのか……。



「あああああ! 無理だやべえ! 終わる気がしねえ!」



 昨日今日と2日連続でさぼったから、明日もさぼるという選択肢はない。

 明日はさすがに登校しなきゃまずい。


 そして登校するからにはもちろん宿題も提出しなきゃいけないわけで。



「なんで俺は夏休みの宿題をやっていなかったんだああああ!」



 そう叫ぶが、しかし叫んだところで意味はない。


 誰も助けてはくれないのだ。


 複数の女子と付き合うという修羅場の後に待っていたのは、宿題を1日で終えるという修羅場だった。


 ループ終わってからの俺の人生に、修羅場が多い!


 こういうのって、なんというか……。

 ループが終わったら、何もかもが解決してハッピーエンドみたいな感じじゃないのかな!


 俺が今まで見てきたループ系の作品とか、ループ終わったら皆幸せそうだったぞ!


 シュタゲとかそうだったじゃん。

 めっちゃ大団円だったじゃん。


 そういうの、大団円は俺にはないの!?


 ループ終わったあとの後始末に追われているのはなんでだよ。


 女どうしの修羅場に巻き込まれたり、夏休みの宿題でひーひー言ってる奴とか他にいなかったぞ。

 


 まあ、なぜループが始まりなぜ終わったのかもわかっていないんだけどな。

 いまから考えるとあれはいったい何だったのか……。


 と、現実逃避をしながら宿題を片付けていると。


 スマホが鳴った。


 いつものメッセージの音じゃない。


 電話の音だった。



「ん?」



 画面を見ると、そこにあったのは「篠原葉流」の文字。


 俺の彼女である、人気若手女優の篠原さんから電話がかかって来たのであった。



「はい、もしもし」 


「あ、京介。いま話してもいい?」



 話か。

 本来なら宿題を解くのに集中しなきゃダメな状況なんだろうが。


 でも宿題の消化に嫌気がさしていた俺は、少しの気分転換がしたくなった。


 だから。


「いいよ」 


 と、頷いてしまった。


 それで今日の修羅場(夏休みの宿題)が、さらにやばいことになるとは知らずに……。


 

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