第14話 電話



 夜。

 夏休みの宿題を夏休みを終えてからやっていると、女優の篠原さんから電話がかかって来た。



「京介、夜遅くにごめんなさいね。夕方からずっと撮影があって、さっき電話できるようになったの」


「別にいいよ。俺も気分転換になるし」


「気分転換?」


「夏休みの宿題をいま必死で解いているんだよ。その気分転換」


「え? なんでいま夏休みの宿題をやっているの? 今日は9月2日でしょ?」


 夏休みなんて終わっているはず、と篠原さんは言う。


「宿題をやっていなかったんだ」


「なんで?」


「……やんごとなき事情で忘れていたんだ」


 どうせループでなくなるんならやらなかった、というのは言わない。

 言っても意味ないしな。


 そして俺の言葉を聞いて、篠原さんは「ふうん」とこぼした。


「つまり、女の子を口説くのに夢中になっていて宿題なんて忘れていたと」


 それはちがう!

 とも言い切れないのが辛い。


 実際、夏休みの間は宿題をせずに口説くことに終始していたしなあ。


 みんなを口説いていたせいで勉強していなかったと思われるのも仕方ない。


「まあそこはいいじゃん。うん」


「はあ、まったく。勉強もせずに何をやっているのか」


 呆れた篠原さんはためいきをつく。


「だから今やってるんだよ」


 そう返したが、しかし言い訳にしか聞こえないなと言ってから気づく。


 まあいい。

 話題を変えるか。


「それで、何の用事?」


「用事ってほどのものでもないけど」


 篠原さんの声が少し小さくなる。


「ただ声が聞きたかったの」


「…………」


 え、なに急に。

 可愛いんだけどこの人。


 年上の美人に可愛い言動されて思わず固まってしまった。


「な、なによ。声が聞きたくなっちゃ悪いの!?」


 俺が何も言わないから、勘違いした篠原さんが照れながら大声を出す。


「いや、悪くないよ」


 悪いどころかむしろ良い。

 とっても可愛かった。


「……」


 篠原さんは少し黙る。

 そしてポツリと呟いた。


「……京介には、謝らないといけないわよね」


「謝る、って」


 電話くらいで大袈裟だな。


「別に電話くらいいつでも」


「そのことじゃないの。今日の、ハーレムのことよ」


 ああ。

 そのことか。


「その、ごめんなさい。ハーレムなんて勝手に決めてしまって」


 篠原さんが電話越しに謝ってくる。


「でもしかたなかったの。あの場で1人を選んでもふられた人は納得しないだろうし。それに――」


「いいよ、別に」


 謝る彼女の言葉を遮る。


「確かにいろいろと大変だし、今後もそうなると思うけど。でも元は俺がやったことの結果だし。それに俺も最終的にこの関係を了承したわけだから」


「そう」


 俺の言葉を聞き、息を吐く篠原さん。


「それならまあ、別にいいのよ。ええ」


 一拍置き。


「あと、呼び方が気になるわね」


「呼び方?」


「私のこと、篠原さんって呼ぶでしょう。彼女なんだからちゃんと名前で呼んで。二人っきりの時だけでいいから」


「は、ハルさん」


「さん付けもだめ」


「ハル」


 呼び捨てにしてみた。


「うん。それでいいの。それじゃおやすみ京介。金曜日の夜にデートしましょうね」


「わかってるよ。おやすみ。愛してるよ」


「ーー! き、急に言わないで! びっくりするから!」


「嫌だった?」


「嫌じゃないけど、でも次からは確認してから言って! 1日に何度も言って! あと私も愛してるから!」


 早口で告げたあと、ハルは電話を切った。


 最後の方、支離滅裂だったなあ。


 パニックになっていた。


 彼女は普段は普段は自身家で落ち着いている方なんだけど、予想外のことがあればすぐに慌ててしまうのだ。


 そして宿題に戻ろうとスマホをしまおうとして。


 ふと、ラインのアイコンが見えた。


 アイコンの隣には4ケタの数字が並んでいる。


「え、何この数字」


 アイコンをタップしラインを開いてみると、そこには大量にメッセージがあった。


 それは全部、彼女達からのメッセージだった。


 やば、これ、やばあ……。



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