第11話 夕食@佐々木家
「まさか上村さんがここにいるなんて想定していなかったわ」
「私も結野さんがくるとは思っていませんでした」
上村さん。
結野さん。
俺の彼女のである二人は俺の家で夕食を食べていた。
結野さんが家に来た理由は、建前も本音も上村さんと同じだった。
建前は俺が忘れ物をしたから届けるため。
本音は俺に会いたかったため。
母には建前を、俺には本音を話してくれた。
それを聞いた母は「どんだけ忘れ物してんの……」と引いた目で俺を見ていたが、冤罪だ。
また、母が発した
「どうせなら結野ちゃんもご飯食べていきなよ!」
という言葉により、結野さんも俺の家で夕食を食べることになった。
忘れ物とはいえ俺に女の子が会いに来たという事実にテンションが上がっているのだろう。
「ていうか、夕食は大丈夫なのか? 4人分しかないだろ」
夕食は4人分しかなかった。
本来は俺、母、父の3人分。
夕食前に家に上村さんが来たからプラス1人分で4人分を今日は用意されてある。
しかし結野さんが来たため食べる人が増えてしまった。
俺、母、父、上村さん、結野さんで5人だ。
1人分足りない。
「あ、それなら問題ないから。お父さんは外で食べて来てもらうし」
「なんで?」
「だって1人分足りないんだもの。お父さんまだ家に帰ってきていないし、ちょうどいいからどこかで食べてきてもらうわ」
なるほど。
結野さんが夕食の席に収まったために、父がその席からはじかれてしまったのか。
頑張って働いて帰ってきたのにはじかれてしまうだなんて。
父よ。かわいそう……。
少し同情してしまう。
「あんたに会いに来た女の子のこと話したらテンション上がって喜んでオーケーしたわよ。後で話聞かせろって」
訂正。
全然かわいそうじゃねえ。
同情して損した。
「それで京介、私にも話聞かせなさいよ。上村ちゃんと結野ちゃん。どっちが本命なの〜?」
ニヤニヤ笑いながらきいてくる母。
そして俺はその答えに窮してしまう。
どっちが本命というか。
どっちも本命なんだよな……。
両方彼女なんだから。
なぜそうなったか?
それは簡単。両方に告白したから。
ま、告白したのも彼女になったのも、2人だけじゃないけどな!
そんなこんなで一緒に夕食を食べることになった上村さんと結野さん。
「すみません。私までお夕食をいただいてしまって」
「いいのよ、結野ちゃん。うちの息子がいつもお世話になっているお礼ですもの」
テーブルは俺の両隣に上村さんと結野さん。
俺の前に母という並び方。
バランス悪くね?
片方に1人、もう片方に3人だ。
この場合、普通は俺と母が同じ方に座り2対2になるようなもんだと思うんだが。
しかし2人はそれを許さず、席に座るときにがっしりと俺の両腕を掴んで強制的にこの向きで座らされた。
それを見た母は、「ほう」と言い顎に手を当てて何事か考えていた。
そして夕食ではーー、
「京介くん! この卵焼きは私が作ったんですよ! ぜひ食べてみて下さい!」
「……卵焼きくらい、私も作れるわ。今度作ってあげる」
「結野さんには無理です。高度な技術が使われているので」
「出来るわよ! 出来るに決まってるじゃない! 高度な技術って何!?」
「京介くん! このお味噌汁は私がお手伝いしたんですよ。お味はどうですか?
「上村さん。この味噌汁は少し味が濃くないかしら? 塩分は抑えめにしたほうが健康にいいのよ?」
「結野さんにはきいていないんですけど?」
「佐々木君。お魚の骨を取ってあげるわ。お皿をちょうだい」
「わ、私がやりますので! 結野さんは何もしないでください」
「いいえ私がやるわ」
「私が」
という様子だった。
2人とも、俺に絡んできすぎだ。
母が見ていることを理解しているのだろうか?
それとも理解した上で?
俺が前を見ると、案の定母はこちらをじっと見て俺たちの動きに不審なものを感じている。
その時母が目を見開いてハッ、と何かに気付いた動きをした。
「ごめんねー私ちょっとお父さんと電話してくるわー」
とそう言ってテーブルを離れてリビングを離れた。
え、急に一体どうしたんだ。
そう思うや否や。
ピコン、とポケットに入れていたスマホからメッセージの音が届く。
このタイミング、どう考えても母だろう。
スマホを見ると
『私がいたら邪魔でしょ? 2人のアピールをニヤニヤしながら離れて見守ることにしたわ』
とメッセージが届いていた。
母よ、何を考えている。
というかこれあれだな。
たぶん、上村さんと結野さんが俺に好意を抱いていて、俺にアピールしようと張り合っていると思っているのか。
正解だよ!
まあ、さっきの光景を見れば大体わかるよな!
流石に両方とも既に付き合っているとまではわからないとは思うけど。
「ねえ、佐々木君」
母が離れるや否や、結野さんが声をかける。
「ん?」
「食事中にスマートフォンを見るのはマナーが成っていないと思うのだけれど」
「ごめん。今しまうよ」
ポケットにスマホをしまい、再度お箸を持とうとすると。
「あれ」
お箸がなかった。
「あら? お箸がなくなってしまったようね。マナーの悪いことをするから無くなってしまったのかしら」
結野さんが笑顔作りながら、わざとらしくしゃべる。
「もしかして、結野さんが取ったの?」
「なんのことかしら? まあお箸の行方や消失の理由なんてどうでもいいわ。問題はこのままだと佐々木君がご飯を食べられなくなってしまうことね」
いや台所からお箸を持ってくればいい話なのだが。
とは言えない、というか言わさない口調。
「だから、食べさせてあげるわ」
結野さんの方を向くと、彼女はお箸に卵焼きを持ち、こちらに差し出す。
「あーん」
「……」
これは、食べなきゃいけないパターンだな。
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