第10話 上村さんが家にいる



「お帰りなさい、京介くん。ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」



 家に帰ったと思ったら、エプロン姿の上村さんが既に俺の家にいた。


 なんで!?


 今日のデートは青山さんだったはずだぞ。

 その青山さんとのデートもさっき終わったし。


 なんで上村さんがここにいるんだ。

 てか母さんはどこ?


「え、なんでここにいるの上村さん」


「なんで、って。それは私が京介くんの彼女だからですよ」


 答えになってねえ!


「京介くんに会いたかったんですよ」


「でも確か、今日は青山さんデートの日でしょ」


「ふふふ。いいですか京介くん。確かに今日は青山さんのデートする日です」


「うん。そうだよね。くじでそう決まったよね」


「はい。ですが、だからといって私が京介くんと会ってはいけないわけではありません」


「はい?」


「だから、青山さんがデートをした後に私が京介くんとお家デートをしても問題はないということです。これなら青山さんのデートを邪魔したわけではありませんし、私も京介くんと会えて一石二鳥です」


 俺が他の人とデートした後に会いに来るってことかよ。


 そんなんありか?


「ていうか、どうやって家に上がり込んだの?」


「京介くんのお母さまに入れてもらったんですよ」


「……もしかして、言ってないよね。彼女とか云々を」


 俺たちの関係は他言してはいけない。

 それは今日決まったことだ。


 7人と付き合っていることは言わないのはもちろん、個人個人での交際の事実も伏せなければいけない。


 どこからどうやってバレるのかわからないからな。


「もちろん言っていませんよ。お母さまには、私は京介くんのクラスメイトで忘れ物を届けに来たとだけ言っています」


「それならよかった……」


 いやーよかったよかった。

 ほんとよかった。


 ……で、なんでこの子はエプロン姿で俺を出迎えているのかな?


「なんでエプロン姿なの?」


「それはもちろん、私が京介くんと夫婦ごっこをしたかっただけです」


 思ったよりくだらない理由だった。


 でも冷静に考えると、「ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」などという出迎え方をする理由なんてそれくらいなものだろうな。



 とりあえず上村さんには部屋に上がってもらった。


 彼女だからな。

 用事は終わったろ帰れなどと放りだすことはできない。


「ここが京介くんのお部屋……! 初めて入りました」


「そんな珍しい物もないよ」


 何やら感動している上村さん。


「とりあえずそこに座って」


「はい!」


 上村さんにベッドに座るように促す。


「ちょっとここで待っててくれ。母さんのところに行ってくるから」


「はい!」


 うなずく上村さんを置いて、俺は部屋を出て母の元へと向かう。





「京介。あんたの彼女めっちゃ可愛いわね」


「彼女じゃないから」


 彼女だと言う母の言葉を否定する。


 ほんとは付き合っているけどね。

 隠しておかなきゃいけない。


「あらそうなの。家にまで来たんだから、私てっきり」


「彼女じゃなくてクラスメイトだよ」


「ふうん? でも脈はあると思うな。あの子絶対に京介のこと意識してるよ」


「な、なんでそう思うの?」


「いやなんか。母の勘」


「勘……」


 何もなければ当てにならない勘だと呆れることもできたけど。


 でも実際付き合っているからなあ。

 実はけっこう鋭いのかもしれない。


「で、なんで上村さんはエプロンだったの」


 彼女がきていたエプロンは、うちにあるものだ。


 貸したのは母だろう。


「それはねえ。上村ちゃんにご飯を手伝ってもらったからよ」


「え、ご飯?」


「うん。京介がいないって言ったら帰ってくるまで待つってさ。どうせなら一緒にご飯を食べないかって誘ったら、じゃあ料理を手伝うって言ってくれたのよ。いやーいい子ねー」


 実際には、俺は忘れ物はしていない。

 というか忘れ物を届けにきただけなら、俺を待つ必要はない筈だ。


 それなのに待つと言ったのは、俺とご飯を食べるのが目的なんだろうな。


 策士だなと呆れつつ、しかしご飯を手伝ってくれたのは事実だ。


 後でお礼を言っておこう。



「もうそろそろできるから、上村ちゃんを呼びに行って」


「わかったよ」


 母の言葉に従い、部屋にいる上村さんを呼びに行ったとき。


 ピンポーン、とインターフォンが鳴った。


「はい。出ます」


 ちょうど一番玄関の近くにいたから、俺は玄関に行きドアを開ける。


 そしたらそこにいたのはーー。



「あら、佐々木君が出迎えてくれるなんて。もう帰っていたのね」



 俺の彼女の一人である、結野さんだった。



 一つ屋根の下に、彼女が二人集まった。

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