第9話 青山さんとデート②



「うわやばっ! これめっちゃ可愛い!」


 手に持ったアニメグッズを見て青山さんがはしゃぐ。


「ねえ、ささっちもそう思うでしょ?」


 青山さんは俺の方を興奮しながら振り向く。


 彼女が持っているのは、今期アニメのラブコメに出てきた女の子のキャラグッズだ。


 複数のヒロインにもてる主人公の話で、可愛いヒロインたちが人気となり今期アニメの中でも話題になっている。


 俺は普段ラブコメはあまり見ない。

 しかしこのアニメに関しては、青山さんとデートの度に話題になっていたから見るようになったのだ。


 ストーリーは普通のものだったが、出てくる女の子が可愛かった。


 それでいいんだと俺は思う。


 ラブコメなんて奇抜なストーリーはいらない。

 女の子が可愛ければそれでいいんだよ。


 修羅場だとかループだとか、ラブコメにはそんなの別に必要ないんだよ……。



 あと複数の女子からモテるという部分に、何か親近感を覚えるなこの主人公。


 まあこの主人公は複数の女の子に告白して付き合うなどという愚は犯していないが。



「俺はこっちの子が好きだな」


 そして俺が選んだのは、青山さんとは別の女の子。


 この子が一番好きなんだよな。

 いわゆる推しという奴だ。


「え~、こっちの方が可愛くない?」


 青山さんは納得いっていない様子。


 どうやら青山さんの推しとは違うようだ。


 青山さんの推しは一番人気のヒロインで、実際この子は出番が多い。


 俺の推しは三番目の人気の子だ。

 出番は少ないが、要所要所で可愛いところを見せてくれるから好きになってしまった。


「あ、もしかして。一番胸大きいから?」


「え、いや! そんなことは!」


 青山さんの指摘に思わず慌ててしまう。


 いやまあ、確かにこの子は一番胸が大きいし、それを活かしたシーンも多いけど。

 この子が水着姿になるシーンで好きになったけど。


 あれ。こう考えてみると、大きいから好きになったのかもしれない。


「あれ~、何それ。怪しい反応だなぁ」


 そしてそんな俺の姿を見て、青山さんは図星だと気づいてしまった。


「ささっちはさ、胸おっきい子の方が好き?」


「まあ、小さいよりは大きい方が好きかな」


「ふ~ん。ふ~~ん」


 青山さんは嬉しそうにニヤニヤする。


「ねえねえささっち。ちなみにウチはGカップだよ」


 知ってる。

 昨日争った時に言っていたのを聞いた。


「みんなの中じゃいちばんおっきいよ?」


 それも知ってる。

 服の上からでもわかるくらい大きいからな。


「おっきいおっぱいは好き?」


「好き、だけど」


 嘘をつくのもどうかと思い肯定する。

 だけど恥ずかしいなこれ。


「へえ~~」


 俺の言葉を聞いて、青山さんは嬉しそうにニヤニヤしている。


「ささっちの大好きなおっぱい、触りたい?」


「え!?」


「あはは、何その顔。冗談に決まってるっしょ」


 驚きのあまり強ばった顔を見て、青山さんは笑う。


「じゃあウチはこっち買うから。ちょっと待ってて」


 そして青山さんは自分の推しのグッズを買いに行った。






 グッズを買った後もデートは続いた。


 アニメイトの近くにあったコラボカフェに行ってご飯を食べ、その後は映画を見た。


 もちろんアニメだ。


 「君の〇は」以降に流行った青春系のアニメ映画で、そこそこ面白かった。


 映画の後は二人で服や本屋に寄って、その後はゲームセンターに行く。 



「ぜんぜん取れないね」


「だな」


 クレーンゲームをしているが、なかなか取れない。


 確か聞いた知識では、持ち上げてとるのではなくアームで当てて移動させるらしいけど。


 当てても大して動かない。


 アーム弱いよこれ……。


 用意していた百円玉が足りなくなってきた。


 すぐに取れると思ったんだけどな。


「ちょっと両替してくる」


「オッケー」


 クレーンゲームを離れて、両替機を探す。


 デートで色々と回ってもう夕方になっていた。

 夕方だからか、ちらほらと学校帰りの制服姿の人も見かける。


 両替機を探すのに手間取ってしまい、少し時間が経ってしまった。


 急いで元のクレーンゲームの場所に戻ると――。




「ねえねえ、いま一人? 一緒に遊ばない?」

「友達も来てるなら一緒に行こうぜ」



 青山さんがナンパされていた。


「ちょ、やめてよ。行かないから」

 

 青山さんは鬱陶しそうに彼らをあしらっている。


 まあ、しょうがないよな。

 青山さんは可愛いし、見た目もギャルで遊びに誘いやすそうだ。


 でもナンパをしている男たちには申し訳ないけど、青山さんは俺の彼女なんだ。

 ここは諦めてもらおう。



「恵梨香」



 俺は青山さんの名前を呼びながら、彼女のところへ向かう。


 名前で呼ぶのは恋人らしさを強調するためだ。

 こういう時はそっちの方がいいんだよな。


「ごめん、この子は俺の彼女だから」


 ナンパしてる二人組と青山さんの間に体を滑り込ませる。


「なんだよ彼氏いんのかよ」

「上物捕まえたと思ったのになー」


 二人はすぐに諦めて、チッと舌打ちして別の場所に向かった。


 すぐに帰ってくれて助かった。

 しつこい奴なら、彼氏がいても誘おうとするからな。



「ねえ、ささっち」


 背後にいる青山さんから声をかけられる。


「ごめんね青山さん。一人にしちゃったせいで声かけられちゃって」


「ううん。それは別にいい。あんなんしょっちゅうだし。それより、さ」


 後ろからギュッと抱きしめられる。


「さっき名前で呼んでくれたね」


 嬉しい、と呟き抱きしめる力が強くなった。


 やばいな。

 背中に胸が当たって気持ちいい。


 ちょー嬉しい。



「ねえささっち。やばい。今さ、好きって気持ち止まらない


「青山さん?」


「名前で呼んで」


「恵梨香」


「うん。ありがと。好き……」


 ぐりぐりと、俺の首筋に彼女な頭が当たる。


「もっかいちゅーしよ?」


「……ここで?」


 ここはゲームセンターの中なんだけど。

 他に人もいる。


 店内にいる何人かから、ちらちら見られているのを感じる。


「うん。ここでする」


 青山さんは、少し不安気な声を出す。


「ダメ?」


「ダメじゃない」


 そんな可愛い声を出されたら、断れないじゃないか。


 振り向いた後、今日3回目のキスをした。






 キスをしたあと、ゲームセンターを出て青山さんと解散した。


 クレーンゲームは結局取れなかったが……それ以上の思い出はできたから良しとする。


「ただいまー」


 家に帰り、ドアを開ける。


 いつもなら、母からのおかえりという声を聞き部屋に行くのだが。

 しかし今日は違った。


「お帰りなさい、京介くん。ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」


 ドアを開けた先には、エプロン姿の上村さんがいた。



 なんで!?


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