第5話 ハーレムしか残されていない



「貴方にはハーレムしか残されていないわ」



 正座する俺に向かって、放たれた女優の篠原さんの言葉。



「……ハーレムとは」


「言葉通りの意味よ。ここにいる全員と付き合って幸せにするの」


「本気!?」


「本気。超本気」


 うんうん、と頷く篠原さん。


「いい? 貴方には全員を愛するという責任があるの」


 あるのか!?


 いや確かに俺は全員を口説いていたし、全員に対して告白もした。

 でもそれと全員との関係を続けることは別問題じゃないか!?


「当り前でしょ。経緯はどうあれ京介は、私達の全員を虜にしてしまったのだから」


「愛するって具体的には」


「そうね……。朝はおはようから始まって、毎日毎晩愛してるとささやき、家を出るときも帰ってきたときもキスをして、夜は同じベッドで寝る。休日にはデートもする。そういうことをやっていくの」


「……篠原葉流ハルって、意外と乙女チックなところあるんだね」


 モデルの吉井さんが呟く。


「女優だから、もっと大人の付き合いとかしてるもんだと思ってた」


「うるさい。男の人と付き合ったの初めてだからよく知らないの」


「ああ、そうなんだ。まああたしも京介以外の彼氏とか経験ないから、人のこといえないけどさ」


「そ、じゃあ話を戻すわよ」


 篠原さんは続ける。


「さっきのはあくまで例だから。重要なのは全員と交際して全員を愛すること。やってもらうわ」


「無理だ。そんな7人となんて――」


「できるでしょう? だって8月の間、私たち全員を口説いてここまで心惹かせたのだから」



 うぐっ。


 篠原さんの言葉に俺は口が詰まる。


 それを言われると何も返せないんだよなあ。


 夏休み中に全員に時間を割いて口説くことができたのは事実だ。


 学校が休みだから時間があったとはいえ、それでも複数人に同時に対応するのは可能だと示されていた。



 いや、俺の能力の問題じゃない。

 互いの気持ちの問題だ。


「みんなはそれでいいのか?」


 俺は他の6人に尋ねる。


「全員と付き合うっていうのは、つまり浮気を公然と認めるってことだ。みんなはそれでいいのか?」



「……確かに、私以外の人も京介くんと関係を持つのは嫌です」


 お嬢様の上村さんが言う。


「私は京介くんを独占したいですし、京介くんも私を独占してほしいです。私たちの家で、私たちだけで、永遠に二人だけの世界で生きていくのが理想です」


 上村さんの目のハイライトが消える。

 ヤンデレの面が出てきてしまっているな。


「上村さんほど重い感情ではないけれど、私も全員で佐々木君と交際することは納得できないわね」


 結野さんも、篠原さんの提案に反対する。


「ハーレムなんて、そんな。不純だわ」


 他の女性陣も、言葉にこそしないが全員が肯定する雰囲気じゃない。



「ふうん? そう。でも冷静に考えてみてよ」


 彼女たちに対して、篠原さんが言う。


「もし私たちの中から一人を京介の恋人にするなら、ここにいる7人から選ばれるのは一人だけ」


「当り前でしょう。佐々木君は一人しかいないのだから」


「ええ。つまり選ばれる確率は7分の1ってこと」


 ねえ、と篠原さんが見渡す。


「貴方たちは自分こそが選ばれると思っているのかもしれないけれど、実際は選ばれない確率の方が高いのよ」


「選ばれたら別にいいわ。でも選ばれなかったら悲惨よ。彼への恋心だけを残して、結ばれないまま今後一生を過ごさなきゃいけないのだから」


「い、一生っていうのは大袈裟なんじゃないかな」


 篠原さんの言葉に横やりを入れる。


「いいえ、一生よ。少なくとも私はそれくらいの気持ちなの」



「私もそうです」

「悔しいけれど、そこに関しては否定はしないわ」

「まあねー。そりゃね。好きだし。というか大好きだし」

「他の相手なんて考えられねえからな」

「私も、好きです。他の方なんて考えられません」

「あたしも同じ気持ちだから。重いかもしんないけどさ」


 篠原さんの言葉に、みんなが同意する。


「でしょう? それなら誰か一人が選ばれて他の子が不幸になるよりも、全員が彼と結ばれて幸せになる方がいいわ」


「それは……」


 結野さんが言葉を詰まらせる。


「でも、納得できないことをすぐに納得しろと言っても無理でしょう。明日までに考えてきて、そこで決めるわ。それで他の全員がハーレムなんて無理だと言うのなら、私も考えを改める」



 そう篠原さんが言い、各々明日まで考えて、またここに集まることになった。


 ハーレムを受け入れるか、それとも誰か一人を選ぶ道か。

 結論をだす。




 いや、ハーレムなんて。

 そんなの受け入れられるはずがない。


 現代日本でハーレムを了承するのは無理だろう。



 そんな、なろう小説じゃないんだから。

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