第3話 始まる修羅場

 そして俺たち五人は、話をするために喫茶店へとやって来た。


 学校はどうしたかって?


 そんなの行ってる場合じゃねえぜ。


 というか学校に行こうと提案したら、全員から鬼のような目で睨まれた。


 そしてこの喫茶店へと連行されたのである。


 席に座ったあと、俺は全員に事情を説明した。


 といってもループのことなんて言っても信じられるわけがないから、ループ抜きで説明をする。


 全員を口説いていたこと。

 8月31日に全員にラインで告白をしたこと。


 理由を聞かれたが、それは正直に言うことはできない。

 どうせループして記憶なくなるから、複数の女子に告白してみましたなんて言えるはずがない。


 今考えると、俺はなんて馬鹿なことをしたんだろうか。


 さすがにループがなければあんなことはしなかった。


 いや、これはただの言い訳なんだが。


 そしてそんな下らない言い訳を彼女たちに言うわけにもいかず。


 俺は「誰でもいいから付き合いたくて、複数の女子に告白してしまった。まさかこんなにOKしてくれるとは思わなかった」と告げ、頭を下げて謝る。


 その言葉を聞いた四人は怒りをあらわにして散々文句を放ってきた。



 どうかんがえても俺が悪い。


 甘んじてその言葉を受ける。



 上村さん、結野さん、青山さん、加藤さん。

 本当に申し訳ない。


 そして店でこんな修羅場を繰り広げられてしまった店員にも、心の中で申し訳ないと謝る。


 みんなの文句が終わった後、上村さんは告げた。


「それで、京介くんは誰と付き合うんですか?」



「へ?」



「へ、じゃないわ。貴方は誰を恋人として選ぶのか訊いているのよ。まさか選ばないわけないわよね」


「え、でも、俺は全員に告白をした不誠実な男だし」


「確かにそーだけどさー。まあそれはそれとして、ってことよ」


「あたし以外にも告白してたのはむかつくけど、それでもあたしは京介のことが好きだ。だから付き合いたい。その気持ちに嘘はねえよ」


 加藤さんの言葉に全員が同意する。



「京介くんは私を選んでくれますよね? 私、信じていますから」


「申し訳ないけれど、佐々木君は私と付き合っているの。こればっかりは譲れない」


「そんなんウチも譲れないっつーか」


「あたし、誰かを好きになったの初めてなんだ。だからわりい、お前らは諦めてくれ……」



 ダメだ誰も譲る気がねえ。


 そして俺が黙っている間に、彼女たちの会話はヒートアップしていく。



「わたし、京介くんと結ばれるためなら手段なんて選びませんよ。利用できるものは何でも利用しますし、どんな方法でも京介くんを手に入れてみせますから……」


 やばい上村さんの目のハイライト消えてる。


 今気づいたけど、この娘ヤンデレ気質だったのか。

 知りたくなかったこんな一面。



「佐々木君。貴方が誰と付き合うのが最善か、よく考えればわかるはずよ。私は貴方に多くの物を与えることができる。勉強だって教えるし、つらい時には貴方を癒してあげる。結婚した時には貴方を全力で支えるわ。私を選べば理想的な将来を得られることを約束する」


 自分と付き合った時のメリットを提示してくる結野さん。

 頭がいい彼女らしい手段だ。



「ささっち。ウチといれば楽しいよ。いつでも一緒に遊ぼうよ。それでいいじゃん」


 青山さんもメリットを提示する。

 しかし結野さんとは異なり、将来に関することではなく今楽しむことを語っている。



「あーもうかったりい! 京介、黙ってあたしについてこい! 絶対幸せにしてやる!」


 単純だが力強い言葉を加藤さんが言う。


 ワイルドで乱暴だが、しかし心に来る言葉だった。

 さすがレディースのリーダーだ。カリスマ性がある。


 

 全員に共通していることは、誰も諦める気がないことだ。

 

 そしてあとの展開はもう、大体想像がつくと思う。

 


 そうだね、修羅場だね。




「わたしはもう子供の名前だって考えているんですから!」


「あらそう? 私は既に子供の人数。通う学校、塾、大学、学費のための貯蓄計画、老後のための資産運用まで検討しているわ」


「べ、別に未来のことを考えてる奴が偉いわけじゃないし! 重要なのはイマだし!」


「いーこと言ったぜお前。今一番あいつを好きなのは誰かって話だよな」



「それならわたしです!」

「私よ」

「ウチでしょ」

「いや、あたしだな」



 やいのやいのと言い争いを始める女性四人。


 渦中の人物である俺ですら中には入っていけない。


 ここが喫茶店の中だと言うことも忘れてわーきゃーと騒ぎ立てる。



「胸ならウチが一番大きいし! Gカップだし!」

「胸? そんなものを競ってどうなるというの? 大きいからなんなの? 大事なのは将来を見通せる頭脳よ」

「あ、そっか。結野さん胸小さいもんねー。ごめんね?」

「――! 私を怒らせたいのかしら? 胸なんてただの飾り。頭の良さが一番重要よ。それに見た目の良し悪しを問うのなら、客観的にみて顔は私が一番美人よ」

「結野さん。頭脳とかどうでもいいんですよ。大事なのは好きな人を支える甲斐性です。わたしの家はお金持ちなので、いざという時の経済力はあります」

「いざってときを言うならよ、金や頭より腕っぷしだろ。喧嘩なら自身はあるぜ」



 やいのやいの。


 言い争いが止まらない彼女たち。


 その剣幕から、店員すら怖がって仲裁に入ってこない。


 お前が原因なんだから早くお前が止めろよという周りの視線だけが俺に突き刺さる。


 正論だが、俺にはどうしようもない。



「「「「それで」」」」



 らちが明かないと判断して、全員が一斉にこっちを向いた。



「「「「誰を選ぶの!?」」」」



 全員が声を合わせて、俺に問う。


 どうしよう。

 誰を選べばいいんだよこれ。


 いや誰を選んでも禍根残るでしょ。


 選ばれた者は喜ぶ。


 しかし選ばれなかった者は悲しむ。悲しむだけで止まらず、決して諦めないだろう。

 そんな気迫を感じる。


 かと言って誰も選ばなくても解決はしない。


 俺が最低の浮気野郎だと判断されて見限られるだけなら別にいいけど、それで終わるとは思えない。


 いよいよやばくなったその時。



 カランコロンとベルが鳴り、喫茶店の扉が開く。

 新たな客が来た。




「あら、こんなところにいたの? 京介」


「京介くーん! ラインの返事がなかったから来ちゃった!」


「ねえ京介。この人たち、私の京介と付き合っているって妄想を言い始めているんだけど、どういうこと? ストーカー? あんたの恋人として注意した方がいいかな?」




 続々と喫茶店へと入ってくる女性たち。


 彼女たちを見て、周りの客がざわつく。



「え、あれってもしかして若手女優の――」

「大人気のアイドルの子もいる」

「あのこ、確か高校生モデルじゃん。今月も表紙飾ってた」



 喫茶店にやって来たのは、日本でも有名な女優、アイドル、モデルの子。


 なんで彼女たちがこんなところに来ているのかと言えば。


 原因は俺だ。

 はい。実は彼女たちも口説いていました……。


 街で偶然ぶつかった縁で知り合ったり、ゲームのオフ会で知り合ったり。


 そういったきっかけで声をかけて、ダメもとでデートを重ねて口説いてみたら、まさかの成功した。

 成功してしまった。


 いや普通女優とかアイドルとかを口説けるとは思わないじゃん……。


 昨日OKのラインが来たときは驚いたよ、ほんと。



「「「どういうこと?」」」


 そして自分以外の女の言葉と、いまの俺の状況を見て、彼女たちがいろいろと察したらしい。


 三人から事情の説明を求められる。


 いや、三人じゃない。

 喫茶店にいた四人もふくめると、計七人から事情の説明を求められている状況だ。  



「は、はは……」



 俺は笑った。


 笑うしかなかった。


 よーし、こうなったら手段は一つだ。



「逃げるんだよ!」



 俺は金を置いて走りながら喫茶店を出て、そのまま逃げだした。


 そして案の定、彼女たちは全員追いかけてきた。



「あーもうこれどうしよう! めちゃくちゃ修羅場じゃねえかよ!」



 どうせループするからって、バカなことしなきゃよかったな!


 というか、ループ終わるなら俺がバカなことしない回で終わって欲しかったな!


 というかこれどうするんだろ、ほんとになあ!



「神様! あと一回だけでいいからループしてくれ!」



 俺は天に向かって叫ぶが、当然そんな言葉が聞き届けられることもなく。


 願いもむなしくループは終わり、俺の修羅場の日々が始まるのであった。



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