第2話 9月1日
「おはよう! 京介くん!」
「お、おはよう……」
明るい笑顔をこちらに向けてくる女の子。
彼女は俺を見つけるや否や、嬉しそうに俺の元へと駆けてきた。
彼女の名前は上村さん。
いいとこのお嬢さんであり、誰に対しても礼儀正しいおしとやかな美少女だ。
俺がこの夏休みの間に口説いてしまった、クラスメイト。
そして、今は俺の彼女だ。
「あの。手を繋いでもいいですかっ!?」
「も、もちろん……」
俺が右手を差し出すと、心の底から嬉しそうな笑顔で俺の手を握った。
「えへへ」
はにかみながら笑う上村さん。
とっても可愛いし、魅力的だ。
だが、俺の心の中は罪悪感でいっぱいだった。
こんなに可愛い彼女がいるのに、どうしてかって?
それは恋愛感情もないのに告白して恋人になってしまったから――ではない。
上村さんは魅力的な女性である。
彼女になってくれるというのならこんなに嬉しいことはないし、いっしょに過ごせば俺はすぐに好きになってしまうだろう。
ただ――。
上村さんの他にも俺が告白した相手はいるんだよな。
「あら、佐々木君」
俺と上村さんが手をつないで歩いていると、話しかけてくる女性がいた。
声をかけてきたのはクラスメイトの結野さん。
俺のクラスで学級委員長をしている女性で、凛とした立ち姿の似合うクールな美少女である。
上村さんが癒し系の美少女だとしたら、結野さんはクールビューティー。
キリっとした顔立ちに違わぬ真面目な性格をしている。
そして彼女も、俺の彼女だ。
二人目の恋人。
「あ、結野さん。おはようございます」
「おはよう、上村さん」
挨拶を交わした後、結野さんがじっと俺の手を――正確には俺と上村さんの繋いでいる手を見た。
「……なぜ、あなたが佐々木君と手を繋いでいるのかしら?」
「へ? それは私と京介君がつ――」
「ああああ! それはえーと、握手だよ握手!久しぶりに会ったからね、ほら行こう!」
「え? 京介くん?」
俺は戸惑う上村さんの背中を押して強引に前へと進める。
俺が複数の女子と交際しているという現状が、バレるわけにはいかない。
バレたとき、取り返しがつかない気がする!
俺の勘がそう言っている!
絶対にやばいことになる!
そんな焦る俺の下へ眉を顰めた結野さんがコツコツと早足で歩いて来る。
俺は上村さんからバッと離れて、結野さんに近寄る。
「な、なにかな?」
「佐々木君。あなたが誰と手を繋いでも、それはあなたの自由ではあるのだけれど。でも恋人がいる身でありながら他の女と手を繋ぐのはおかしいと思うわ」
「はい。すみません」
「反省したなら別にいいわ。束縛の強い女になる気はないの」
そう言い、俺に向かって手のひらを差し出す結野さん。
「何をしているの。早く手を繋ぎましょう? これでも今日一緒に手を繋いで登校するのを楽しみにしていたのよ」
俺は差し出された手をとる――わけにはいかなかった。
それはこちらをじっと見る上村さんを気にしたこともあるがそれだけじゃない。
ここに来る三人目が視界に入ったからだった。
「ささっちー、きちゃったー」
三人目の声。
「いえーい」
その声の主は、青山さん。
ノリの軽いギャル系の女の子で、俺が夏休みの間に口説いた女子。
そして今は俺の彼女だ。
青山さんも、俺が昨日告白して成功した人の一人だ。
三人目の恋人である。
「ってあれー? 上村ちゃんと結野さんじゃーん。おっはー。こんなとこで一緒なるとかマジぐうぜん。二人は一緒に来てんの?」
「青山さん。おはようございます」
「おはよう。上村さんとは一緒に来たわけではないわ。偶然であったの」
上村さんと結野さんが挨拶を返す。
結野さんは上村さんと偶然出会ったと思っている。
がしかし、そうじゃないんだよな。
そしてそれを俺だけが知っている。
「え? ちょっと待って。ささっち?」
結野さんがその呼び方に疑問を抱く。
「ささっち。もしかして佐々木君のあだ名かしら。貴方たち、そんな呼び方をしあうほど仲が良かったの?」
「あー、それはねー。ささっちとは夏休みの間にちょー仲良くなったんだー。昨日もね、私に告――」
「あああああ! もう学校行こうか! ねえ!」
とうてい誤魔化せているとは思えないが、大きな声を出して言葉を遮る。
「おい京介!」
そしてそんな俺の行為も、すぐに無為に期した。
「おい京介。一緒に学校行くぞ! 夏休みに二学期からは学校に来いってあたしに言ったのはお前だからな、責任とりやがれ!」
ここまでで大体察することができると思う。
そう。
四人目だ。
四人目の彼女だ。
彼女は加藤さん。
夏休みに俺が口説いて、昨日ラインで告白し、そしてOKを返した女性。
彼女は不良で、レディースのリーダーをやっていた少女だ。
夏休みの間にひょんなことから顔を合わせたことをきっかけに、俺が口説いたのだ。
そのとき不良を辞めて真面目に学校に来るよう彼女を説得していた。
まさか軽い気持ちで学校に来るよう誘ったことが、こんな結果になるだなんて。
「あとさ。べ、弁当、作ってきたから! あたし料理とかやったことねえから下手かも知んねーけどさ、食べてくれたら嬉しいっつーか」
「弁当?」
加藤さんの言葉を訝しんだ結野さんの鋭い声が聞こえる。
「弁当ってどういうこと? ただのクラスメイトがお弁当を作るなんておかしいわ」
「それもそうですね。なんでお弁当を」
「ああん? そんなの当たり前だろ」
あ、やばい。
「あたしが京介の彼女だからに決まってるだろ」
俺が止める間もなく、加藤さんがそう言った。
「「「……え?」」」
加藤さん以外の女性陣が驚く声が聞こえる。
「? なんかおかしい反応だな」
首をかしげる加藤さん。
唖然としている三人の中で、最初に気を取り戻したのは結野さんだった。
「どういうことか、説明してくれるかしら」
結野さんのその言葉を、俺は冷や汗を垂らしながら聞いていた。
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