高1の夏休みがループするようになった。次の回でどうせ記憶なくなるからと色んな女の子を口説きまくって付き合ったらそこでループが終わって、いま修羅場

沖田アラノリ

第1話 ループと出来心とループの終わり



 同じニュース。

 同じ天気予報。

 同じテレビ番組。

 同じ新聞。


 もう何度目だろう。

 飽きてしまったな。


 チャンネルを変えても、それも全て見飽きてしまったもので、意味がないからテレビの電源を消す。


 そして、俺は今回も同じ朝食を食べた。


「はあ……」


 今は夏休み初日。

 7月20日。


 終業式の翌日。


 他のすべての学生にとっては楽園の初日である。

 そして俺にとっては呪いの日でもある。


 終業式の翌日ではあるが、俺にとって昨日は終業式ではない。


 何を言っているのかわからない?


 まあつまり。

 俺の状況を簡単に説明すると。



「ああそうか。確かこれで30回目の夏休みか」



 俺、佐々木京介は繰り返す夏休みの中にいた。


 いわゆる、ループというやつだ。






 夏休み。

 7月20日から8月31日まで。


 ちょうど一学期の終業式の翌日から二学期の始業式の前日までをループしている。


 それに気づいたのは2回目の夏休みのとき。


 朝起きてスマホを見たら、日付が7月20日になっていたのだ。


「あれ? 9月1日じゃなくて、7月20日?」


 最初はスマホの故障かと思った。


 けどちがった。


 親も友人もその日を7月20日だと認識しているし、実際に登校してみたら学校は夏休みだった。


 これはループだと気づいたのはその時だ。


 でも俺はラッキーとしか思わなかった。


 だってもう1回夏休みを楽しめるんだぜ? 

 とてもラッキーだ。


 そして2回目の夏休みを遊びつくし、来る8月31の翌日。


 朝起きたら7月20日だった。



「マジかよ」



 さすがに俺も驚いたし、もしかしてこれ永遠にループをするんじゃないかと危機感も覚えた。


 でもループの原因がわからないし、なんで俺だけが記憶を保てるのかもわからない。

 

 そこからは遊ぶだけでなく、いろいろと調べて回った。

 このループを抜け出す方法を探して回ったんだ。


 調べた結果。

 何もわからなった。


 いやわかるわけがない。

 こんなわけのわからない状況、どうやったら解決方が見つかるんだよ。


 そうして俺は諦めた。

 とりあえず現実逃避をして、自分の楽しみをすることを決心した。


 楽しみとはいえ、別におかしなことをしたわけじゃない。


 夏休み中にずっと勉強したり、逆に宿題を放ってずっと遊び惚けたり。


 旅行をした回もあった。

 海外にもいったことも何度かあったな。


 運動に精を出した回もあったし、絵を描いて過ごした回もあった。


 とにかく色々やって楽しんだ。


 そしていま、30回目のループ。


 体感的にはもう2年半か。

 なんならもう高校卒業していてもおかしくはないんだが。


 とはいえループを抜け出す方法も見つからないし、今までやってなかったことをするか。


 今までやってこなかったこと……。



「女を口説くか。それも同時進行でたくさん」



 いわゆるハーレム。

 というか浮気。

 

 我ながらクズいなー。これ。


 でももう犯罪以外の俺ができる限りのことはやってしまったしな。


 たった30回のループでなにをと思うかもしれないが、人間あとのことを考えずに何でもやっていいとう状況になれば、大抵のことは意外とすんなりできてしまうものだ。


 そうしてやりたいことを全て終えてしまったのである。


 まあ、俺ができないこと――例えば札束のプールにはいるとか、小説投稿サイトで累計一位をとるとか――はできないままなんだけど。


 そこらへんは、一か月のループじゃ限界がある。 


 他に残っていることは、ジゴロになっていろんな女をくどいてみることくらいか?


 あとは、どうだろう。

 探せばやってないこともあるんだろうが、今は思いつかないし、それは思いついたその時にやればいい。


 というわけで、とりあえず今は複数同時交際を決定。


 今回のループの間にいい感じの仲になり、8月31日にラインで全員に告白。

 そして結果を見る。


 どうせその翌日にはなかったことになるんだからいいだろ。


 何の意味もないことだけど、そんなこと言い出したら次のループでなくなってしまう以上、ループ中にやるほとんどのことが意味なんてないし。


 一人も引っかからなかったら、何が悪かったのかを反省して再挑戦でもするか。


 途中でばれたらそれはそれでおもしろそうだ。


 というわけで、手当たりしだいの知っている女子にアプローチしてみよう!




 という勢いのまま、俺の30回目の夏休みが始まった。


 その夏休みの間に何人もの女の子を口説き、デートし、そして8月31日にラインを使って告白した。


 結果からすれば大成功。


 一日でたくさんの――、いやひと夏か。

 ひと夏の間にたくさんの恋人ができた結果となった。


 もちろん全員とはいかなかったが、それでも何人かと交際できたことは充分な成果だ。


 でも残念ながら彼女たちとはこれでおさらばだ。


 明日には新しいループが始まる。


 今回の結果を見て俺は満足し、次のループを始めるべく眠りについた。


 そして目が覚めた時。


 スマホには9月1日という文字が記されていた。


 ループが終わっていた。


「え! は! ええ!?」


 ループが終わっている。

 終わっている!


「よっしゃあ! やっと終わったぞ、夏休みのループ!」


 永遠に続くかもしれないと思ったけど!

 なんだすぐ終わるじゃん!


 正直なんでループ終わったのかわからないけどまあいいや!


「うおおおお! やったあああああ!」


 俺は大声をあげて喜んだ。

 どうやら自分でも意識してなかったが、夏休みのループが相当ストレスだったらしい。


 そこから解放されて、大声で喜んでいた。


 そうして喜んだのもつかの間。



 ピコン、とラインがメッセージを受け取る音が鳴った。


「うん?」


 スマホを見てみる。


『付き合って二日目の記念だし、一緒に登校しない? 始業式終わったらデート行こうよ』


 メッセージにはそう記されていた。



 そして、同じ内容のメッセージが他に三つほど届いていた。



「あ」

 

 やばい。

 最悪のタイミングでループが終わった。


 そのことに、俺はやっと気づいた。

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