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「ああ、シャンが! シャンの女王が、燃えていく!」
真っ赤に燃えながら崩れ落ちていくシャンの女王の死骸を前に、八木山医師はただ茫然と立ち尽くしていた。
地下室を出る直前に何とか意識を取り戻した私は、八木山医師の隙をついてシャンの女王めがけて試験管を放り投げた。
シャンの女王の頭部に見事ジャストヒットした試験管は、その衝撃で大爆発を起こし、一瞬のうちにシャンの女王を炎の渦の中へと引きずり込んだ。
八木山医師は振り返り、力なく呟いた。
「どうしてだ。きみなら、この崇高な目的を理解してくれると思っていたのに」
彼は、本当に信じられないとでも言いたげな表情を浮かべていた。
「……かつての私だったら、もしかすると、あなたを止めていなかったかもしれません」
私がそう答えると、八木山医師は観念したかのように、ふっと小さく笑った。
「そうか。それでも、きみは生きていくことを選ぶのだな」
私は無言で頷いた。
「皮肉なものだな。シャンが……あの男の記憶が、きみを変えてしまったというのか。まったく、最初から最後まで、邪魔ばかりする男だ」
彼はそう言い残すと、炎の中に身を投げ落とした。
一瞬の出来事に、私はそれを止めることができなかった。
「ならば、せいぜい足掻くがいい。苦しんで、必死にもがいて生きたとしても、その先に価値あるものなど何一つない。そのような、決して報われることなどないという絶望に、寄り添って生きていく覚悟があるのならば」
炎の中から、八木山医師の怨嗟の叫びが鳴り響く。
「そして、その先でいつか出会うであろう、あのお方の愛に対峙したとき、きみがその覚悟を持ち続けられるのか……私は楽しみにしているよ」
その台詞を最期に、八木山医師の命は炎の中で燃え尽きていった。
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