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「あの、ここへ来る前に私が見た夢って……」

 シャンの元へと急ぎながら、私はバーのソファで見た夢について、遊間に尋ねていた。

「ああ、恐らく僕の幼少期の記憶だろうな」

「やはり、そうでしたか……」

 まさか、遊間にあのような凄惨な過去があろうとは露ほども思っていなかった。

 その自由奔放な性格から、てっきりオカルト趣味に傾倒した金持ちのお坊ちゃんか何かだと勝手に思い込んでいた。

 しかし、彼には彼なりの……彼が乗り越えなければならない苦悩があった。

 私は、表面上のやり取りだけで彼の内面まで理解している気になっていた自分の思い上がりを恥じた。

「あの綺麗な女性は……」

 ふと、夢の最後に出てきたあの儚げな女性の姿が浮かんだ。確か、名前は万由と言っていただろうか。

「僕の従姉だ」

 その言葉を聞いて、なぜか私は少しほっとしていた。

「従姉……ですか」

「ああ、そうだ」

 そう返事した遊間の目は、どこか物悲し気に見える。

「ずっと昔の話だ。すまないが、忘れてくれないか」

 遊間にそう言われて、漸く私は自分が遊間の心の触れられたくない部分に、土足で踏み込んでいたことに気付いた。

「すみません……」

「いや、良いんだ。あんな光景を見せられたら、誰だって気にならずにはいられない」

 遊間はそういうと、鹿撃ち帽子を深く被りなおした。

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