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「何やら浮かない顔をしているな」
気が付くと、ソファのすぐそばに遊間が突っ立っていた。
右手には、高級そうなウィスキーの瓶を握っている。
時計を見ると、すでに深夜の十二時半。いつの間にか、マスターも厨房から姿を消している。
恐らく、マスターの目がなくなるこの時間帯に、たびたび店からお酒をくすねては、自分の部屋で気化酒として楽しんでいるのだろう。
「別に何でもありません。少し、昔のことを思い出していただけです」
「そうか、それなら良いが」
遊間はそういうと、さっさと二階の事務所へと戻ってしまった。
暗い気持ちを少しでも吹き飛ばせればと、私は遊間の真似をしてバーにある高そうなお酒を少しだけ拝借することにした。
お酒を口に入れた瞬間、舌がピリリと痺れ、喉がカーッと熱くなる。
やはり、お酒は苦手だ。
私は大人しくソファへ横になって瞼を閉じた。
……。
…………。
………………。
身体が妙に火照っている。
アルコールのせいだろうか。
瞼の裏に、二階へ上がっていく遊間の後ろ姿が浮かぶ。
手錠で繋がれていたときには気にもならなかった、陶器のように白い肌。
少しでも、力を加えようものなら、ぽっきりと折れてしまいそうな華奢な細腕。
あの細腕を後ろから掴んで、押し倒したら、あの男はどんな声を上げるだろう。
そのまま首元を押さえて、締め付けたら、彼はどんな表情を浮かべるのだろう。
微睡む意識のなか、私はそんな危うい思考を繰り返す、もう一人の私に気付くことができなかった。
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