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 昼食を終えると、やるべきことがあるからと言って、遊間はさっさと二階の事務所へ戻っていった。

 私は泊めてもらうお礼にと、マスターのお店の準備や接客のお手伝いをすることになった。

 私がお店を手伝っている間、遊間が部屋から出てきたのは夕食の時の一回きりだった。

 マスターによると、これが彼の日常らしい。

「後はお皿洗いだけだし、そろそろ上がってもらっても大丈夫よ。今日はありがとね」

「はい。私もはじめて接客のお仕事が体験できて楽しかったです。ありがとうございます」

 私は制服を脱いで私服に着替えると、そのままバーのソファに倒れ込んだ。

 久しぶりの労働からか、心地良い疲労と充実感が全身に広がっていく。

 しばらくソファの柔らかさを顔全体で味わった後、私は寝返りを打って仰向けになった。

 天井の木目を見つめながら、私はあの日、神府町で見た記憶について思い返していた。

 犯人の男、喪六紫杏と私は、どこか似ていると思った。

 あの男は父に捨てられ、唯一の庇護者であるべき母に疎まれた。

 私もまた、父に見捨てられ、唯一の味方であった母は突然失踪してしまった。

 あの男は、両親からの愛を正しく受け取ることができなかった。

 そして、彼の異変に気付いて手を差し伸べてあげられる大人たちが周囲にはいなかった。

 それゆえに、あの男は歪み、そして、行き場のない怒りを女性に向けて凶行に走ってしまったのだろう。

 幸いなことに、私には母が残してくれた言葉や思い出があった。

 それゆえに、私は道を踏み外すことなく今日まで生きることができた。

 しかし、厳しい父や冷たい兄を、私を置いて消えてしまった母を……そして、不条理なこの世界そのものを……憎んでいる自分が心のどこかに存在する。

 それは、あの男と同じだった。

 だからこそ、シャンは寄生先として私を選んだのであろう。

 そう思い込んでしまうほどに、私とあの男の境遇は相似していた。

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