30
しかし、その願いは叶わない。
「クヒ、クヒヒヒ。……ここかなぁ?」
次の瞬間、私を覆い隠していた布団は宙に舞い、虚ろな目をした男と目が合った。
「そんな……あなたが?」
そこにいたのは、昨晩も神府町からの帰りに立ち寄った、行きつけのコンビニの店員であった。
「お願い、やめて……」
私の助けを求める呟きは、しかしその男の耳には届かない。
「ミイツケタ……」
男はその場でにたりと、気味の悪い笑みを浮かべた。
そして両手をすっと私の首元に近づけたかと思うと、突然、尋常ではない力で私の首を締め付け始めた。
私の両足が、宙に浮かぶ。
プールの底に沈められたかのように、息ができない。
苦しい。
私は、薄れゆく意識の中、なおも必死に祈り続けた。
助けてくれるなら、誰だっていい。神でなくても、人でなくても。
例えそれが、悪魔であっても……。
――ガンッ。
鉄パイプか何かで人の頭を殴りつけたような、鋭い金属音が室内に鳴り響く。
その後、ひと呼吸ほどの間をおいてから、ドスンという何かが倒れる音とともに、私はベッドへと放り出された。
恐る恐る瞼を開けて、床の方に視線を移すと、先ほどまで私の首を締め付けていた男が、白目を剥いて仰向けに倒れている。
そして、上方に顔を上げると、
「どうやら、間に合ったみたいだな」
血痕の付着した杖を右手に構えて、悠然と佇む遊間の姿がそこにあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます