第6話

「ちょっと、達也さま。お話があります」

「──ああ」

 少し、陽も暮れてきたころだろう。

 俺は変わらず緑茶をすすっていた。しかし、その容器のなかに緑茶などなく、すでに飲み干しているのだ。

「さきほど、達也さまの想い人がいらっしゃいましたね」容赦なく朝子は言う。「そのとき、どんなお話をなさっていたんですか」

 そう言われて、なんと答えればいいのかわからなかった。

 俺にとって有紗が大事だ、というのは京極了という人が来た時点ではっきりとしていたことだ。だが、それがどうだろう。その気持ちをぶつけられず、結局、有紗を悲しませた。

 思った以上に。

 自分という人間は、勇気がないと、そこで実感した。


「一応、確認いたします。達っちゃんは、有紗ちゃんが好きなのよね」


 少し口調をやわらかくして、朝子はたずねた。朝子は俺の親代わりのようなものだ。あまり叱られてこなかった俺を唯一、叱ってやれるのは朝子と有紗をおいてほかにはいない。


「……ああ」

「それなら、大事したいと思うよね?」

「だろうね」

「じゃあ、なんであんなことに?」

「──言えなかった。言うことはできたのに、タイミングが分からなかった」

「じゃあ、そのタイミングがあれば、言えたのね?」

「ああ」

「それなら私が作ってあげるわ」


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