【僕まだロボット】戦乙女の黄昏
亜未田久志
機械仕掛けの終末戦争
耐G性能が男性より高いというだけで女性パイロットがその機体への搭乗を許された。機体コードネーム『シグルドリーヴァ』、最大速度マッハ3で飛ぶ化け物。その動力炉にはマントルから引き上げた「マグマコア」を使い、敵を狩る。そうこれは狩りだった。そのはずだった。
「なに……あれ……」
敵性コードネーム「スルト」。その巨体は1キロを超えた。人類にそんなものが作れるのか。自動化に自動化を重ねて、増殖し肥大化した巨体は飽和し自重で崩壊しはじめている。それでも都心のユグドラシルシティに向けて行進を止めない。それに対し用意されたのは六騎の「シグルドリーヴァ」
――足りるわけがない。
パイロットの一人、リザは思った。これは迂遠な自殺だ。あんな巨体に勝てるわけがない。いくら機動力があっても火力が足りない。あれを破壊し尽くすためには核が必要だ。しかもただ打ち込むだけでは装甲に防がれる。そこで作戦立案チームが考えて来たのは――
――正気じゃないわ!?
核爆弾を持ってスルト内部へ特攻をしかける。というものだった。極東の腹切り精神じゃないのだ。それに乗る北欧の民が居るとは思えなかった。しかし。
「私が行きます」
リザの親友のアニータが手を挙げた。彼女は国のために命を捧げる気だ。
――作戦前日の夜。
「ねぇアニータ、一緒に国外逃亡しよう」
「そんなことしたら銃殺刑だよリザ」
「こんな軍なくなっちゃうよスルトに潰されて」
「大丈夫、私が守るから」
彼女の決心は固いようだった。
――決戦当日。
結局、全機に核弾頭が搭載される。
どの機体が内部に入り込んでもいいように。
――イカレてる。
リザは吐き捨てる。アニータの立候補も無意味。六人全員が片道切符を渡された。全員が機体に乗り込み、発進シークエンスに移行する。
「シグルドリーヴァ01、スタンバイOK」
「シグルドリーヴァ02。スタンバイOK」
――そんな言葉が続いていく。
「し、シグルドリーヴァ06、スタンバイOK」
――アニータの様子がおかしい。
そして。
全機発進する。
そして一機が反転した。
アニータの機体だ。
「アニータ!?」
止めようと思いやめる。彼女は恐怖に負けた。最初こそ勇んだものの恐れをなして逃げたのだ。だけどそれでいい。
「シグルドリーヴァ01から各機へ、戦線を離脱しなさい。この作戦、私だけで成功させます」
他の機体から慌てるような通信が来るが「これは命令です」とだけ告げて通信を切った。
――そして私はスルトと対峙する。
「全容が見えないじゃない……まるで鉄で出来た山だわ」
内部への入り口を探す。マッハ3の機動力を活かして要塞のようになったスルトからの砲撃は避ける。避ける。避ける。
「機動力ばっかりで反撃用の武器がまともにない……やっぱりこの機体、最初から特攻用に造られたんだわ」
これがシグルドリーヴァと同スペック同士の戦いならば華麗な空中戦も見れただろうに。相手がこんなデカブツでは華麗も優雅もなにもない。
「あるのはクソだけね」
鉄のデカいクソの上を飛んでいると、センサーに反応があった。熱源反応一番大きい砲塔、炉心に直結している。
「そこに突っ込めってかアホセンサー」
もうここまで来て生き残る道も無い。さて私はなんのために戦って来たのだろう。特攻に立候補もせず、敵前逃亡もせず、仲間を逃がし、ここまで来た。なんのために?
「そんなの自分のためにきまってるじゃない!」
そう、誰に言われたわけでもない。自分に意思で、ここにいる。シグルドリーヴァは最大速度のマッハ3を軽く超えてスルト内部へ突っ込んだ。砲塔から火の手が上がるも別ルートへとリザは逃げている。
「ようは炉心にこの核弾頭をくっつけちゃえばいいんでしょ……!」
途中の敵侵入時のために用意された防壁をヒートキャリバーで焼き裂いて先に進む。
「さっきの砲塔が直結ルートならこの道であってるはず」
その時、敵の機体、敵性コードネーム「ギガント」と出会う。加速、一瞬で裏へと回り込みその機体にマグマコアからのエネルギーキャノンを見舞う。
「災難だったわね」
守りが居るという事は。
「ここが炉心……」
小さな太陽だった。その光を見つめ続ければ目が焼かれるだろう。リザはシグルドリーヴァから核弾頭を取り外す。そして炉心室に設置し、機体を降りて、サバイバルキットから小型爆弾と信管を取り出し、さらに携帯端末と繋げ簡易的な時限爆弾を作る。それを核弾頭の内部にしかける。
「ちょっと被爆したかな……ちょっとで済めばいいけど」
賭けた命だ。勝てばお釣りが来る。シグルドリーヴァがスルト内部を駆ける。脱出するために、狭い内部ではマッハは出せない。それでも最高速で駆け抜ける。
――急げ、急げ、急げ。
設定時間は5分。それだけあればシグルドリーヴァなら間に合うと思った。そしてスルトの外に出る、残り時間は1分。スルトから全速力で離れる。Gで全身が潰れそうになりながら、砲撃をかわし、追手を撃ち抜き、空を翔けた。その姿こそ伝説に名高い戦乙女の姿だったかもしれない。
――夕景が真っ白に染まった。
核弾頭がスルトの炉心を破壊し連鎖爆発を引き起こし辺り一面の大地を焼いた。
――スルトからしばらく離れた平原、ユグドラシルシティとの中間地点。
「みんな? それに――」
逃げ出したはずのアニータまでそこに居た。
「ごめ、こめんあ、ごめんなさ」
「いいよ」
そう私達は賭けに勝ったのだ。全員生きてる。
「ねぇみんな、どうせ軍法会議にかけられるなら、このまま国外逃亡しない? 母の故郷なら亡命を受け入れてくれると思う。シグルドリーヴァっていうお土産もあるし」
「「賛成です!! 隊長!!」」
実はこのチームに隊長とかはいなかったのだが、指揮官が流行り病で死んで以来、代理を務めていたのがリザだった。
「よろしい、じゃあみんな行こうか、マッハ3で」
六機の戦乙女が綺麗な隊列で飛んで行く。
【僕まだロボット】戦乙女の黄昏 亜未田久志 @abky-6102
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