第9話 犯罪と人権
『迎えに行くから』
と成田
ふたりはふたりの家に帰ってきた。だけどもなずなは大きな傷をつけて帰ってきた。なずなはずっとそっぽを向いていた。
「明日仕事?」
湊は聞いた。
「辞める。」
なずなは下を向いたままそう言った。
湊はなずなの後ろにつき、腕をのばしてなずなを包んだが…
「やめて。」
なずなはびくびくと少しひきつけを起こしながら振り払った。
「松本一佳、その女に会ったんだろ?」
なずなははてなという顔をした。湊と目が合った。
「一佳に誘惑されて男にレイプされてきたんだろ。」
「どうして、それを…。」
「僕の方から警察には届け出したけど、今回のことは事件沙汰にできない。」
「??」
「お前にも落ち度がある。」
「わたし、帰るわ。」
「お前の思う通り、以前友達だった一佳の嫉妬と妬みだよ。
僕の事務所にも押しかけて付き合えとか脅迫めいたことを言われたこともあるよ。」
なずなは荷物をまとめはじめた。付き合う時に買ったキャリーケースがあった。
湊はなずなを止めることができない。
「悪かったよ。」
湊は極めて優しく囁いた。なずなはキッと睨みつけた。
「バカ!」
湊はキレてしまった。湊はなずなには言わなければならないことがある。わっと吐きつけるように一気にしゃべった。
「俺は、お前が仕事がうまくいってないとか、家事が上手じゃないとか、
騙されて男と寝てしまうこととか…
俺が怒っているのはそういうことではない。
そういうひとつひとつを俺に訴えられなくて、事件が起きても目も合わせられない、そんなんじゃ何もできないんだよ!」
なずなは、震えながら泣き出した。
「すべて隠してしまうお前のそういう心がもう俺には許容できない。」
なずなは荷物をさっさと詰め終えて、玄関を開けた。できるだけ急ぎ足で前へ進んだ。
アパートの駐車場へ向かう廊下でどこか見知った人がすれ違ったような気がした。
「そうやって逃げるのは相手の弱さを許せないから?」
冷たい台詞は身体を凍えさせた。今年はもう、秋の方が先にやってきてしまうかもしれない。
実家に帰った1人部屋で静かになずなはスマホに呟いた。
「もうわたしは。」
小さなテーブルに広げていたのは婚姻届―に自分と湊の名前を書いていた。
そしてもう一つ書類、住民票の雁井 なずなという名前と生年月日をゆびでなぞってみてそして思いっきりひきちぎった。
『この注射を刺すように。』
特殊警察官という片から渡された注射針をなずなは1人で刺した。倒れた。数分して暗闇色の服で身を包んだ男たちがなずなの家に押し入り、二階の自室のなずなを運び始めた。
「
複製された戸籍謄本を眺めなが田河
空に生きる SEASON2 夏の陽炎 @midukikaede
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