第8話 彼はいちじく

 左手首には、古ぼけたデザインの腕時計があった。

その秒針は永遠を…チクタクと数えてるような気がした。

普段、仕事では最先端の時計をしている彼―三明みあけは、そっとひとり建物の裏影に隠れるときだけアンティークの時計を身につけていた。

田河たがわ みのるか。大人になったかな?)

田河は先日もA社に出入りしていた。そこで三明ともミーティングの時間を設けることができた。

 「なずなちゃんだっけ?あの成田 かなでさんと恋人になってそして別れたんだっけ?」

 A社の社員、みどりの相談事についての話のあとで、世間話のような感覚で三明は田河に聞いた。

 「碧さんは大丈夫ですよ。なずなさんと同じじゃないですからね。

  ヒソヒソ…暴力団からの嫌がらせは回避できます。」

 碧は家を出て一人暮らし先で変な女に後をつけられたり、下着をポストに入れられたり、玄関前で女が待ち伏せしてたりされていた。

 「うちのバイトの法華のりかが好きだとか嫌いだとか碧は言ってましたけど、女性からの嫌がれせから逃れたい口実でもあるんでしょうね。」

 三明は現実的な問題を整理して言った。

 「なずなさん…の話は、僕は直接電話で聞いてますよ。

  あの子も暴力団に被害を受けたんですね。」

 そう言って田河はノートパッドを三明に見せた。

 『もしもし、なずな?なずな?なんで帰ってこない?』

 『…きゃっ!だめなのよ、ダメ…』

 『何か問題があったのか?帰ってこれるか?迎えに行くか?』

 『いやよいや。』

 『携帯のGPSが新宿歌舞伎町をさしてる。行くから』

 この音声を聞いた三明は言った。

 「成田さんに会ってみたいですね。」

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