第7話 あれから

「あれから 僕はいくつの 夢を見てきたんだろう♪」

song by 中島美嘉


 少女の歌声が聞こえる。

学生のような三編みおさげの女の子が夕方日に染まる街を通り抜けた。


 真也は、タイムカードを押す前に、法華に声をかけた。

法華は急いでいた。まだ着替えもしてない。

 「この間はどうしたの?ぼーっとして。」

 「真也さんは、綺麗ですね。」

 「え」

 「では。」

 法華は振り切って更衣室への階段を上った。


 出口—―真也

(待ってる!)

法華は気持ちとは裏腹に前へと進んでいた。

 「お疲れ様…です。」

 「綺麗って?」

 「らしくないですね。」

 「?」

 「若いっていいですね。

  色んな可能性を持っていそう。

  そうね、結婚…そんな他愛のないことも

  もう私には叶えるパワーもないなぁと。」

 真也はもう一歩前に出た。そして、ちょんと法華の腕を触れた。

 「駐車場は?」

 「もう少し…そこまで行きましょうか。」

 ふたりはとことこと歩いていた。まさに地面を確かに踏んでいて地球に送られている。

 「みどりさんってなんであんなに私を見つめるんですか?」

 「?ぇ?」

 「この間はごめんなさい。若かったらなぁと。」

 「……。」

 地面のじゃりじゃり感から厚く盛られたコン…アスファルトへ足を滑らせる。

 「碧さんは、彼女がいるよ。」

 「そうなんですか?」

 「結婚しないんですか?不躾で悪いのですが。」

 ふんわりと法華の肩に真也さんの肩が触れる。いつかのひな壇写真のような優しさは胸をふさぐ。法華は鍵を開けた。何も聞かず、助手席のドアを開けた。

真也さんは一礼して座った。

 「はっきりとしたことなんて見えない。ただここでみなさんと会えてよかった。

  コンビニでお茶を買うからそしたらそれを持って帰って。」

 真也さんは運転席に座った法華の左手と頬を手に取った。そして静かに手を離し、法華は車を発進させた。


 3分待つことにした。

法華が一人コンビニに入り、ほどほどの値段の有名茶をふたつ購入。本当にそれだけだったけど、ガムをひとつ追加してみた。いつかの夕空を教えてくれた人が男の子にあげてみたら?と呟いたものだった。

 『それじゃ、夕焼けだって教え合えないじゃん。』

 『恋人じゃないと隣合っちゃいけないのでは?』という法華の力ない質問に答える先見の先輩の台詞だった。もしかしたら、おじさんだったのかもしれない。

 「飲んでね。これもおまけ。」

 どうでもいい言葉に真也はうなずく。

(わからずとも知れず)

 「お茶を開けるね。」

 キャップをスッとはずした真也は一口含み、悔しさにうなだれた。

そして右頬、法華の、に触れ、唇に少し残った茶をこぼした。

なんでもない失礼さを携えて。

舌は奇妙に伸びて唇を拭う。そして一枚絵に戻るように元に戻した法華は真也を見つめた。真也はうなずいた。そしてもう少し身体を近づけて法華の唇に唇を合わせた。

そして何度も何度もキスをした。

ったった5分の間に。別れもきちんときめていたように互いは座り直して車を発進させた。そして駐車場の欠けたピースを直すと、車の青は滲んだ。

 「おやすみ。」

 台詞など頭の隅にもない法華は瞬きし、

 「おや・すみ…なさい。」

 と囁いた。


 真也はとりあえずまっすぐ自分の車へ帰っていった。ガムは口が欲しがった。知らないことが多すぎる女の子であった。年齢の割に。


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