第6話 夏に入道雲はお決まり

 「ひと、ひとりひとりの人生を背負い込むなんて無理なことですよ。」

 みのるは優しく諭した。

 「背負い込む?いえ、僕は1人の女の子のズレを気にしただけです。」

 「でも課長さんには

  『それじゃ、もっとかわいそうですよ。

   僕より年上でいい歳なのに結婚もない気後れした女性…なんて。』

  と言い訳してますよね?そんな言葉、女の子本人には言えませんよね?」

 みのるはトクンと心臓が深く脈打つのを感じた。

 「自分のを抑えきれない、それでいて、課長さんにも心配かけたくない。

  多重の行為は自分一人ではやり遂げられませんよ。

  齢25、みどりさんは若いですよ。」


 実は考察しておいたセラピストノートの通りに、一通り話したあとに、着信を受けた。

如月きさらぎ 四都葉よつば

(ああ、如月さん、イラストレーターか。)

今日はなんだか気乗りしない。頼まれた仕事は完璧を奏したくらいの達成度があったのに、薄暗さを果実味残る若葉の裏に隠せない。

 「なずなとかなでが別れた。」

 「イラストを見てほしいの?僕に?」

 「あのファンレターの差し金、なんだったんだよ。」

 二人は沈黙した。よくもまぁ意気投合する僕らだ。小説家、成田なりた かなでさんが如月さんと仕事のための初対面の時より僕らは長く付き合っている。

 「夏の終わりにゆずれない花が咲くんだよ。」

 「自我か?生物時計?」

 一面の夕焼け、厚くなった雲。

(残暑逃げ切れない晩夏、あの季節に自分を取り戻しに行くんだね。)

電話は終了した。如月さんも納得したかのようで、何を並べるかをまた再確認するためにふたりは別れた。

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