第3話 No More War

 「『私は日本人として生まれた』ですか?」

 お客さんが、お店に立ち寄って聞いてきた。

 「そうです、この映画、もう上映が始まっているんです!いい映画でしょ?」

 和子は得意満面の笑みでお客さんに応対した。

 「どんな話ですか?」

 「浪人した大学生が、えっと外国人女性に出会い詐欺にあう話です。」

 「詐欺?」

 お客さんが眉を顰めた。

 ——第二次世界大戦、それは私たちに許されぬ傷をつけた——

 という映画宣伝タイトルをお客さんは指でなぞった。

 「えっと…詐欺師は戦争被害者を語るんです。されど被害者は…。」

 「映画見てないのでそれ以上は聞かないですね。」

 和子は、うっとした。

(わたしは接客ができていたかしら。)

 「このフレンチクルーラーは映画の宣伝?」

 お客様は、シュークリームの商品の御品書きを指さして聞いた。

“No More War”とフレンチクルーラーの写真の下に書いてある。

そのフレンチクルーラーといえば、ビビッとな虹色アイシングが施されていて、ちっちゃなハートチップ(薄ピンク)が散らされていた。

 「…痛みが…伴うものでしたよね。」

 「ぇ?」

 和子さんが不意に言われた言葉に目眩がした。

 「この虹色を買おうかな。新米店長さん、お疲れ様です。」

 お客様はふふっと笑うと注文した。

 「おひとつですか?」

 「20個」

 崖って唐突にぶち当たる。巡りくる迷路という運命に逆らえずに。苦手だと遠のいていた責任を負えばその代償がやってくる。

(20個も一人でってそれぐらい当たり前か。)

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