第2話 夜の霧と靄

 夜は美しい蝶が舞うの。

いつかの母が歌う様に言った。なずなはうなずきながら聞いていた。

父と離婚した母は、工場作業のパートを辞めて厚化粧をし、キャバクラで働き始めた。熟女専用のキャバクラらしく、母は羽根が生えたように嬉しそうに仕事へ通った。

母のことを考えないようにしていた。なずなは直感していた。

(母にとって私は話相手のようなもん。)

夜の寒さに身を焦がさないように、なずなが必要なだけだと。どんなに生活費を賄ってくれても、払えない日があっても、ご飯が用意されようとされまいと、母は私の瞳を覗いてはくれなかった。

 東京では、美しい鳥が舞うの?

なずなは、つい新宿へと向かってしまっていた。母はいない。家に行けば会える。されど…。

 「ねぇ。」

 すると唐突に声を掛けられた。

綺麗な女性だった。

 「あの、その、仕事の勧誘またはお店への勧誘は遠慮させてください。」

 なずなは言った。

 「ちがうのちがうの!」

 女性は手をパタパタと振った。ニコッと笑うと夜の光によく似合う。

 「ともだちがぁさぁ、飲み友達探してって。」

 なずなは、脳裏にふと湊さんの面影を思い出す。

 「わたし、飲めません、お金もありません。」

 「いいって家で飲もうよ!人数合わなくってさ。」

 「??」

 女性はなずなの肩を抱くとそっと裏通りへ誘導していった。


 とりあえず、裏通りにあった小さな居酒屋に通された。

そこで男性が2人奥の席で座っていて、今まさに、グラスを合わせているところだった。女の子が、

 「かわいい子見つけたよ。」

 と言ってなずなを紹介した。そしてなずなを席に促した。

男性はニッと笑い空グラスをなずなの前に置き、お酒を入れ始めった。シュワッとなってグラスの口から流れそうになるのになずなはビビり、唇で拭った。

男性がひとつ、手を叩くと、またもうひとグラスにお酒を注ぎ、なずなの顎を掴んできた。びくっとしてもすぐ後ろは壁で身動き取れず、あごは掴まれるままに自由にされ酒の入ったグラスを口に流された。


 朝起きると、そこはアパートらしき部屋の一室。

両隣には男性がいて、ヌード…。

なずなの胸はすいていてつまり裸。男性が眠っているのだけは幸い。

悲しみ。

分からぬまま

慌てて身体にタオルケットを巻き服を探し、クローゼットからブラウスとズボンを見つけて着て、例の女性を探した。

入り口を出て行くとそこから階段があり下に行くと見知った…昨日の居酒屋。

カウンターに女性がもたれかかって居眠りをしている。

そこに白の襟付きブラウスとグレーのパンツそれから…下着…が置いてあった。脱ぎっぱなしのまま…。靴下も拾い、しゃがみこんで着替えて、財布の入ったバッグも見つけてサッと中身を確認すると慌てて出て行った。

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