ライバルだと思ってたお嬢様が私(庶民)に分からされて悦ぶ変態ツンデレ女だった
にゃー
わりとスケベなお話ですご注意を。
例えば、幽体離脱が出来るようになったとして。
身体から抜け出た魂は壁も床もすり抜けられて、魔術障壁にも探知結界の類にも引っかからなくて。
だけど魂の抜けた肉体は無防備で、その魂の方だって、身体からはほとんど離れられないとして。
うっかり目覚めちゃったこの能力を、普通だったらどう使うんだろう。
私?
私は、そうだなぁ……
折角だし、隣の部屋にいるライバルの様子でも、こっそり覗き見たりなんかしちゃおうかなぁ、とか。
夜も耽ってきた頃合い、学園も寮も寝静まってるこの時間に、彼女はいったい何をしてるんだろうか、とか。
偉ぶってるけど実は勤勉で努力家な彼女のことだから、勉強してたり特訓してたりするのかな、とか。
そんなことを考えながら壁をすり抜けて、彼女――テラシア・サンバーストの部屋に入り込んだ私の目に映ったのは。
「ぁ、ぁぁっ……ふぅぅぅ……っ♡」
一人で絶賛お楽しみ中なテラシアの姿だった。
……あぁ、うん。
いや、そりゃまぁ、いくら名門貴族の令嬢とはいえ、テラシアも年頃の女の子なもんだから、そりゃ、そりゃあ勿論、ムラムラする夜だってあるわけで、一人でひっそり性欲を発散するのは、全然、悪いことなんかじゃないんだけど。
「、♡……アニアったら……、全くっ、ん……庶民のくせに、っ、生意気ですのよ……!……ぅっ♡」
何だってこの子は、私の写真を凝視しながら致してるんですかね。
うつ伏せになりながら膝を立ててお尻を突き出し、枕にあごを乗せるその姿勢は、どう見ても洗練された常習犯のそれ。
両手はばっちり太もものあいだで蠢いていて、壁に貼り付けられた私の写真(角度的に多分盗撮されたもの)を熱っぽく潤んだ緋色の瞳で凝視する姿は、いつもの高飛車で勝気な彼女からは想像も付かないような、んもー、何というか……申し訳ないけど、痴態としか言いようのない惨状だった。
いつもは日を浴びて燦然と輝いている長い金髪が今は、ウェーブがかって彼女の背中や腕に纏わりついていて、ほんとにもう、なりふり構わず夢中になってるんだなっていうのが伝わってくる。
「今日だってっ、ぁひっ……♡……わたくしの事をっ、あんな、あんな風にぃ……んひぃっ♡」
……いや、なんて声出してるの。
んひぃっ♡って、名家のお嬢様が出していい喘ぎ声じゃないでしょそれ。
ていうか、そんな下品な顔しながら言われると、まるで私がテラシアに変なことしたみたいに聞こえてきちゃうじゃん。
今日の私たちの絡みといえば……いつも通り、実戦演習で私が彼女をぼこぼこ(に見えるけど実はいつも結構ギリギリで勝ってる)にした、ってくらいだと思うんだけど。
「ちょこまかとすばしっこく……♡!、っ……わたくしの弱い所を的確に、ィっ……!!」
いやほんと、言い方はともかく。彼女が今オカズに、もとい、あー、イメージしてるのは、私の心当たりと同じく、今日の授業の一環で行われた実戦演習のことみたい。
……え?
ってことは何だ、この女、私に負けた時のことを思い出しながら耽ってるのか。
私のことが好きだからとかなら、まぁ、まだ、分からなくもないけど……何だってまた、敗北感に浸りながらこんなに発情しちゃってるのか。
「このわたくしが、いつもいつも、っ……♡……あんなちんちくりんにぃ……!く、屈辱ですわぁっ♡」
いや、悔しさをバネにするのはいいけど、だからってこんな変な方向にはトばないで欲しかった。
全く、テラシアのやつ、綺麗な顔してとんでもない変態じゃないか。
実は心の中では、友達だと思ってたのに……
入学当初に顔を突き合わせて、はや二年半。
そろそろ学園卒業も近づいてきたこんなタイミングで、唯一無二のライバルだと思っていた少女の、ぐにゃんぐにゃんに歪んだ性癖を目の当たりにすることになるだなんて。
勿論、勝手に人の秘密を覗き見ようとした私が悪いんだってことは、重々承知してはいるけども……
「覚悟しなさぃっ、アニアッ……♡……明日こそは、必ずっ……んんっっ♡」
……結局その後も私は、お盛んに自分を慰める彼女の様子を、何とも形容しがたい複雑な気持ちで眺め続けていた。
◆ ◆ ◆
ライバルのとんでもねぇ性事情を知ってしまった翌日以降も、何だかんだ言って表向きは今まで通りに接することが出来ている辺り、私の面の皮は相当に厚かったらしい。
まぁ普段から、ダウナーだのジト目だの何考えてるか分からんだの周りに言われまくってる私らしいっちゃあ、私らしいのかもしれない。
「もうっ……!なんっで、当たらないんですの……!!?」
今日も今日とて実戦演習の時間、テラシアの放つ雷撃を紙一重で躱しながら、私は訓練場を駆け回る。
「大体っ、雷よりも早く動けるなんて、おかしいじゃないの!!生物の理に反していますわよ!?」
バチン、バツンと落雷が地面を焼く音と一緒に、彼女の苛立たしげな声も聞こえて来た。回避しても地面とかを伝って感電しそうなものだけれど、実際のところ直撃さえしなければダメージはない辺り、やっぱりこの雷が自然現象とは違う人為的なものだってことが窺える。
ま、とは言っても結局、雷の雨に守られている彼女に近づくのはそう簡単じゃないんだけど。
「……いや、魔術で雷を生み出せるのもおかしいって、散々言われてるはずだけどね……」
雷は自然現象でありながら、四大属性の地水火風どれにも類さない存在。
つまりそれは超自然的な神の怒り、神威にして神意であり、雷を操ることが出来るテラシアは、現代に生まれ落ちた神の御使いである。
……なんて言い出す人もいるくらい、彼女固有の雷撃魔術は特異なもので。
私の、テラシア曰く『意味が分からないくらい速く動く』能力なんかよりよっぽど、学園の内外からも注目されている特別な力なんだけど、こと実戦ってなると、少なくとも現時点では、私の方に軍配が上がっている。
当たれば間違いなく、私の小柄な体も黒いボブカットも真っ黒こげになるだろう雷撃を紙一重で躱しながら、少しずつ接近していく。
……いや、そもそもアンダーウェアで首から下は全部覆われてるんだから、最初っから真っ黒といえば真っ黒か。全身タイツとか言うな。ちゃんとその上からシャツと短パン履いてますー。
テラシアには「痴女ですの?」って言われたけど。
今になって思い返してみると、あのセリフも彼女のむっつりどスケベな本性の表れだったのかもしれない。だって、人様の戦闘服を痴女呼ばわりなんて、普通だったらしないでしょ。
全く、自分がかっこいい礼装風の白慈式魔導服着てるからって、えらそーに。
あー、なーんか、ちょっとムッとしてきた。
澄まし顔でバチバチ言わせやがって、この名門貴族め。
「……もういっか、いつも通りで……」
どっちにしろ、速過ぎる雷撃と速過ぎる私自身の攻防の最中に、真っ当な作戦なんか機能するはずがない。だってどっちも速過ぎるんだもん。
だからいつも通り、つまり、突っ込んで行ってぐーで殴る。
「行くよー」
「――!!くっ、今日こそは――!!」
もっと速くという私の意思に引っ張られて、身体は更に、でもごく僅かに、でもでも確実に、その速度を上げる。
目視なんて到底出来るはずもなく、発する音すら置き去りに。
テラシアを守る雷が途切れた瞬間、もう、ほんとにほんの一瞬の隙に、私は彼女の懐に潜り込んで、遠慮なく腹パンを決めてやった。
「ぅごぉっ――――!!――――っ…………
めちゃくちゃ苦しそうな声をあげながらすっ飛んでいくテラシアの姿に、ああ、今日も一日有意義に過ごせたなぁなんて、哀愁を覚えずにはいられない私でしたとさ。
◆ ◆ ◆
「あぁ、またっ♡……また、っ、負けましたわぁっ♡……!」
嬉しそうだね、ほんと。
お腹の、私がぶん殴った辺りをさすさすさわさわしながら、テラシアは今宵もまた敗北感に浸っていた。
「わたくしの、ぉっ……高貴なる体に風穴を開けるだなんて……♡……庶民の分際でぇ……♡」
拳が貫通したのか衝撃でかは分からないけど、まぁ向こう側が見えるくらい綺麗に開いていた彼女の腹部の穴は、ちょー優秀な医療班のおかげで後もなく塞がっている。
夕食時にはいつも通り学食で、なんでそれ太らないんだって量の高そうなディナーをお淑やかに食してたし、もう内臓まで綺麗さっぱり回復済みなんだろう。
「うっ……ふっ、ふ……♡……んっ、ふぅぅっ……♡」
……いや、だからって自分でそこぐりぐりしながら勤しまなくたっていいんじゃないかなぁ。
左手でお腹を圧迫して少し息苦しそうに呻きながらも、右手はあいも変わらず秘密の花園へってな具合。お腹へ振動を送るたびにたわわ×2な胸部装甲もぷるんぷるん揺れて、何なら若干目にうるさい。
「――ぅっ♡……ほっ……ぉ、ひぃんっ!……♡♡……」
お、
やー、ひと段落っていうか、息つく間もなく二回戦目に突入するもんだから、実際は読点くらいの意味合いしかなさそうだけど。
しっかしまぁ、お上品さのかけらもない喘ぎを漏らしながらご自愛に勤しむテラシアを見てると、神の御使いなんて言っても結局人間なんだなぁって思っちゃうよね。
それか、神様も相当な淫乱どスケベかのどっちか、かな。
◆ ◆ ◆
昼は切磋琢磨し、夜は性的嗜好を一方的に覗き見る。
そんなアブノーマルな関係を続けながらも、遂に私とテラシアにも卒業試験を受ける時がやってきた。
「――いましたわね」
「いたねぇ……」
鬱蒼と茂る森の中、私たちの視線の先に佇むのは、大岩と見紛うほどに巨大な影。むしろ、隆起して地表に出て来た岩盤か何かでいらっしゃる?ってくらい物々しいそのシルエットは、龍種の内の一つ。
いわゆる、地龍ってやつだ。
「まさか学徒の身で、成体の龍と戦う事になるだなんて……」
「先生たちも無茶ゆーよねぇ」
歴代でも類を見ないほどに成績優秀かつ特異な力を持ったテラシアと、何か分かんないけど実技でだけは彼女に常勝している私の卒業試験は、それこそ歴代でも指折りな高難易度に設定されちゃっている。
つまりそれが、二人で成体の地龍一頭を討伐するってやつ。
「いつもみたいにどーんっ、ばーんっ……とは、いかないし……面倒くさいなぁ」
「当たり前じゃないですのっ。いいですか、くれぐれも、くれぐれも!無茶な突貫は控えるよう」
「はーい……」
ここは学園の敷地外、かつこれは卒業試験なもんだから、マジで死にかけて教員判断で中止にならない限り、医療班の治療は受けられない。
これは討伐に成功した場合でも同様で、当人の実力ギリギリの敵を宛がわれることも相まって、毎年この試験で指の二、三本無くなるくらいは、さして珍しくもないんだとか。
そりゃぁ実戦じゃ、瀕死からでも治せる治癒術師なんている方が珍しいだろうけど……だからってこれは、あまりにも実力主義というか実地主義というか。
ぶっちゃけ頭おかしいよね、この教育方針。
ま、入学時点でみんなその辺りには同意してるんだから、多分私たちも漏れなく頭がおかしいんだと思う。
「出来れば、気付かれる前に先制を仕掛けたいところですけれど……」
テラシアの言葉には同意しかないけど、中々どうしてそれが難しい。
そもそもこの、森の中っていう状況が良くない。
私の高速移動は、速度を上げれば上げるほど細かな動作が難しくなっちゃうし。テラシアの雷撃も、なんか物が多いとそれらに引き寄せられちゃって、軌道が安定しなくなるらしいし。
木やら草やら岩やらが辺り一面を覆っているこの場所は、私たちにとってはあまり得意な戦場じゃないのだ。
まぁ、そこも加味しての試験内容なんだろうけど。
やってらんねーって愚痴る私の横で、テラシアがどうにか先手を打とうと思案……してたら。
「……ねぇ、いま目が合わなかった?」
「……合いましたわね」
「……なんか、こっち来てない?」
「……来てますわね」
うーん、まだそこそこ距離はあったはずなんだけどなぁ。
流石は野生種最強と言われる龍種だけあって、外敵である私たちにすぐさま気が付いちゃったみたいで。岩肌のような黒く刺々しい外殻で木々をなぎ倒しながら、猛スピードでこっちの方に突進してくる。
「結局、正面から戦うしかないかぁ」
「致し方ありませんわね」
一応、地龍の生態は頭に入れてある。座学はあんまり得意じゃないけど。
そこら辺はばっちりであろう成績優秀なテラシアが、結構余裕をもってその場から離れ、私がギリギリまで引き付けてヘイトを買う形で、私たちと地龍との戦いは始まった。
◆ ◆ ◆
結論から言うと、勝った。
二人とも、指とか手足とか命とかを失うこともなく、立って歩ける程度の怪我で、何とかなった。
戦いにくい地形で、それでも今日の為に訓練し精度を上げて来たテラシアの雷撃魔術は、地龍を相手にしても戦えるほどに十分な力を発揮したし。
私だって、精密に動けるギリギリの速さを常に維持して動き回り、殴る蹴るの徒手空拳でちくちくちくちく地龍の体力を削って敵意を引き、ストレスを与えまくってやった。多分、相当イライラしてたと思う。
最終的に、私の攻撃で体勢を崩したところに、テラシアの特大の雷が降り注いで、討伐完了って感じ。
だから二人とも無事、こうして一息つきながら駄弁るくらいには、元気ではあるんだけど。
「……でも、怪我しちゃったねぇ」
テラシアの右腕には、大きく走る一本の傷が。
二の腕から肘までぱっくり開いちゃったそこからは、当然ながら赤い血が流れ出ている。
「……何ですの?まさか貴女、自分の所為でわたくしが手傷を負ったなどと考えてはいないでしょうね?」
「やー、まぁ。ヘイト管理は前衛の仕事だし、ねぇ……」
一度だけ。業を煮やした地龍が、すぐ近くにいる私を無視して、テラシアの方へ突っ込んでいった場面があった。
物理攻撃しか出来ない私には、そのわが身を顧みない突進を止める手段なんてなくて。や、こっちも後先考えずに最高速度で体当たりしてたら、多分止められたとは思うんだけど。
「あんな見え透いた突進、わたくしが躱せないはずないでしょう」
最速を出そうと心に決める直前、視線の先にいたテラシアが、私の突貫を目で制した。
自分は大丈夫だから、無茶はするなって。
その瞬間、戦闘の真っ最中だっていうのに、私の心はすぅっと静まっちゃって、そしたらもう、無茶な高速移動なんてできるはずもない。
結局、大丈夫っていう宣言通りテラシアは、地龍の突進そのものは躱して見せたんだけど。あんまりにも強烈過ぎるその攻撃の余波で飛んできた破片やら何やらで、肌を裂かれてしまったっていう、ただそれだけの話。
別に死ぬわけでも後遺症が残るほどでもないし、相手の強さから考えたら全然軽傷なんだけど。
まぁやっぱり、私の力不足でテラシアに負わなくてもいい怪我をさせちゃったっていうのは、けっこー心苦しいものがある。多分この傷、痕が残るだろうし。
「ふんっ。むしろ痕が残ってくれた方が、学生時代に龍種を討伐した良い証明になりますわ」
強がりじゃなくて多分本気でそう思ってる辺り、この学園に入ってきただけのことはあるなぁ。
「……そっか」
「ええ、そうですわ」
本人が胸を張ってそう言うんだったら、私がいつまでも気にしてます感出してても、うざったいだけだろうし。
「……でもとりあえず、止血くらいはしとこっか」
「……お、お願いしても、よろしいかしら?」
「はいよー」
いや、なんでそこで顔を赤らめるんですかね?
ウブか。夜は独りであへあへ楽しんでるくせに、いまさら生娘気取りかこのお嬢様め。
……なーんて言葉は流石に口には出さないまま、手早く止血して、裂傷用の軟膏をぬりぬり。
「…………」
だから、私の指先をそんなにガン見しないで。
ま、これも今日くらいは、気付かない振りしといてあげるけど。
「……あ、ありがとうございます。後は――って、ちょっ、包帯……!」
「いーから、動かないで」
最後にびりびりーっと、自分のシャツの裾を破って、テラシアの腕に巻いていく。多分この子は、こっちの方が喜ぶ。私の勘がそう言ってる。
「――これでよし。んじゃ、さっさと帰ろっか」
「え、ぇぇえぇ、ええ。帰りましょうかっ」
「……んー?」
挙動不審な様子のテラシアに、あえて、意地悪っぽく目を細めてみる。
「やっぱ痛む?」
「そ、そそそんなことありませんわよ!?」
本当にそんなことないんだろう上擦った声を、遮るようにして。
傷口を布の上からそっと、そぉーっと指でなぞりながら。
「――手をお貸ししましょうか?お、じょ、う、さ、ま?」
「~~~~!?!?!?」
――ま、これで負い目は無しってことで、ね?
◆ ◆ ◆
「ぁんの、ぅっ♡、小生意気な庶民っ……めぇっ♡♡」
めっちゃ楽しそうだねぇ。
てかなんなら、いつも以上に鼻息が荒くなってる気さえする。
「ふっ、ふっ♡、ふーっ……♡」
まー、今日は卒業試験と称してあんなのと戦わせられたんだから、そりゃ、気が昂っちゃうのは分からないでもないんだけど。
この子の場合、明らかにそれだけじゃないってのが分かり切ってるのがなぁ。
「何ですの……あの♡っ、イヤらしい指使いは、ぁっ♡」
言いがかりも甚だしいことを蕩け声で垂れ流しながら、左手を右腕の方に伸ばすテラシア。
二の腕の傷は、一応もう塞がりはしたけど、だけどやっぱりバッチリ痕にはなりそうな感じで、だっていうのにでれでれあへあへ嬉しそうな顔でそこを撫でさするもんだから、もう、何ていうか、どんな顔すればいいんだろうね、私は。
「ぃ、まだ、少しジンジンしてっ……ぃぃ♡」
良い、じゃーないんですが。
本格的にマゾヒズムに目覚めちゃいつつあるのかと、ライバルとして心配せざるを得ないよ、全く。
「それに、あのっ……けしからん格好っ♡……服ビリ、からの、ぉ♡お腹……♡」
けしからんくないわい。合理的な戦闘服だい。
てか服ビリってなんだ。まるでそんなジャンルが確立されてるみたいな物言い……いやなんでお嬢様のくせにそんな変な性癖に明るいんだこの子は。
ほんっとにどうしようもないですね、この変態令嬢は。
「あんな……♡あんなぴっちりしたインナーなんてぇ♡ド淫乱じゃないですの…………スキ♡」
スキとかいうな。
一方的に聞かされるこっちの身にもなって。
……こっちが勝手に覗き見してるだけだった。
まーいいや。
「しかも、最後っ……あのっ、あのぉ……!」
私が自己解決しているうちにも、一層高くなっていくテラシアの声。
「何ですの……!あのっ、生意気なセリフはぁ……♡」
一応自分でも、調子に乗った言動だったのは分かってるし、多分そういうの好きだろうなって、何となく思いながらやったことではあるんだけど。
こうも悩ましげに喘ぎながら、そのー、動力として使われちゃうと、なんか……うん、なんだろうね。
こればっかりは、半ば分かってて
んで、じゃあそれが、ケガさせちゃったお詫びとしてだけのものなのかっていうと……正直、ねぇ?
とかぐるぐる考えてるうちに、テラシアは、私がかけた言葉にきゅーっと身体を強張らせながら――
――手をお貸ししましょうか?お、じょ、う、さ、ま♡
「う゛っ♡♡♡」
あ、
ていうか、私は別に、語尾にハートなんてつけたつもりないんだけど。
んもー、どうせ最後には虚無の極みみたいな顔で後片付けするんだから、もうちょっと加減すればいいのに。
今日もいつも通り、魔術で綺麗にされるんだろうシーツがびっちゃびちゃになっていくのを眺めながら、そう思わずにはいられない私でしたとさ。
◆ ◆ ◆
んで。
卒業試験も無事合格したってなると、後はもうそのまま卒業するしかないんだけど。
これまた毎年恒例、卒業式の催し物として、その世代の実技上位二名が戦う、いわゆるエキシビジョンマッチ的なのがあるわけでして。
まぁ、私たち世代の実技上位二名って言ったらそりゃ、当然。
「やー、ここでも戦うことになるとはねぇ」
「ふんっ。癪ですが、わたくし達はそのような運命にあるのかもしれませんね」
既に闘技場で待機している、私とテラシア。
……自分で言いながら、運命って言葉で嬉しそうにするな。癪じゃなかったのか。
学園内外から私たちを……っていうか多分、大半はテラシアの雷撃魔術を見に来たであろう人たちで、大闘技場は既に満員御礼状態。
その中には多分、卒業後にテラシアが加入するギルドの偉い人なんかも来てるだろうし、エキシビジョンとはいっても、ここで彼女がカッコいい姿を見せておいて損はしないはず、なんだけど。
「良いですか。わたくしは今日この日こそ貴女を分か……んんっ、打倒すべく最後まで研鑽を続けてきました」
「うん、それは知ってる」
いや、だからそんな簡単に嬉しそうな顔をするなと。
一応自他ともに認める高貴な令嬢でしょうが、あんた。
「……と、兎に角、本気でかかってくる事です。その上で、地面に這いつくばらせて差し上げますわ」
ま、そりゃそうだよねぇ。
私たちの戦いに、外野の目やらなんやらは関係ない。
どうせ、誰もついてこれないだろうし。
「じゃー、今日もぐーでやってやりましょうかね」
「望むところですわ」
いつも通り軽口を叩き合ってから、少し距離をとって再び向かい合わせに。
振り返って数秒ぶりにみたテラシアは、両足を肩幅くらいに広げて、左手で支えた右腕を突き出すっていう構えを取っていた。
「――――」
いかにもそれっぽいホーズに沸き立つ観客たちなんかとは比べ物にならないほど、私の心臓は高鳴っていた。
テラシアが、構えを取った。
昨日まで、ただの一度たりともそんなことしなかった彼女が、今、初めて。
「……ほんとに」
本当に、本気なんだって。
今日まで続けてきた彼女の努力を知っていたつもりで、それでも知らなかった何かに、彼女は辿り着いたんだって。
もしかしたらテラシアは、今――
「――あは。本気だ、お互い、恨みっこなしの、本気。ね?」
「ええ。そう言ったではないですか」
胸が高鳴る。
心がヒートアップしていく。
目を見開かずにはいられない。
魂が叫んでいる、早く、早くって。
外野どもの歓声なんてもう一切聞こえなくなっていて、ただ私の耳は試合開始を告げる先生の声だけを捉えようとしていた。
一瞬。
本気の本気で、一瞬で決める。
既に心にそう誓っている。
だからその一瞬の始まり、合図が待ち遠しいし、聞き逃せない。
早く、早く、ねぇ、早く――!
「――試合、開始っ!!」
その瞬間に、私の心は世界を置き去りにした。
眼球に依る視界じゃない、自分とそれ以外って隔たりで、見えるもの全てが捨て置かれていく。
(もっと、もっともっともっと、速く――!!)
私は自分の能力を、高速移動するための身体強化の類なんだと思っていた。
でもある時。
もっと速く、更に速く、もっともっとって子供の駄々みたいに思いながら前に進もうとしたら、不意に、身体が置き去りにされてしまった。
いわゆる、幽体離脱ってやつ。
私の力の本質は、早く速くっていう願いが魂を際限なく加速していくことだった。
肉体がそれについてこれる限りは、現象として起こるのは高速移動のような何か。だから物理的な自然法則も無視できたし、超自然的な雷撃すらも超えることが出来た。
それが行き過ぎて、肉体すら邪魔だと切り捨ててしまったときに、心と体が分離しちゃう。
私の能力の到達点が、そこだった。
まー正直、幽体離脱の方の使い勝手は微妙なんだけど……とにかく、実戦で使うなら、心身が分離しない程度に魂を加速させていくって感じになる。だから私は武器を持ってない。この吟味に吟味を重ねた戦闘服ならともかく、私自身が加速していくうえで、装備なんてあっという間に置き去りにされてしまうから。
そんで、この条件下で出せる全力――つまり私が出せる最速の体当たりがこれ、なんだけど。
(――!?刺さった、なんか――!?)
びっくりした。もう、ほんとに。
加速した思考ですら追いつかなかったそれは、翳されたテラシアの掌からまっすぐに伸びていた。
雷撃なんかじゃ断じてない、何のうねり歪みも屈折もない一直線の筋は、あらゆる無駄を削ぎ落した純粋な光と熱の出力。
多分音すらもなく伸びたその、光線、とでも呼ぶべき熱量が、最高速に至る前の私の肩を貫いていて。
でもでも、そんな辺りを認識した時にはもう、私の体はテラシアに触れる直前まで来ていた。
「ぐっ、ぅ!?!?」
「――――ッッッ!?!?!?」
ばちばちばちぃって、こっちは聞き慣れた音を激しく鳴らしながら、テラシアの体を覆っていた雷撃の壁が、私を容赦なく黒焦げにしてくる。
でもそれと同時に、確かに接触した私の体は、テラシアを闘技場の壁にまで吹き飛ばしている。
「……ぅ、……」
もっくもくしてた土煙が晴れるまで数秒だったのか数分だったのか、曖昧な意識では良く分からなかった。
「…………、…………」
さっきよりも遠く、障壁がなければ多分粉々になってただろう壁に、背を預ける感じで、テラシアが崩れ落ちている。
手足はばきばきのぐちゃぐちゃ、胴体なんか、何なら平べったくなったんじゃないかってくらいで、当たり前のように全身血まみれの半分肉塊みたいな状態。
なんてレビューする私の方も、全身炭化して真っ黒こげだし、目とか耳とか鼻とか口とかからヤバい粘度の血液が垂れ流しになっちゃってる。
「…………」
「…………」
どっちも満身創痍っていうか、何でまだ意識あるのって感じの私とテラシアだけど、でも。こんなになっても絶対に覆らない、厳然たる事実ってやつがある。
それは、私が立ってて、テラシアは座り込んでるってこと。
どんなにお互いぼろぼろの死にかけだろうと、誰が見たって一目で分かるでしょ。
「――また、私の勝ち、だね」
多分、聞こえてたと思う。
◆ ◆ ◆
「――ん゛ぅーっ♡ふっ、ふっ、ぉん゛♡♡」
いやあ、今宵はまた一段と飛ばしてますねぇ。
お陰様で、お嬢様らしからぬお下品な喘ぎ声にも、だんだん慣れてきつつあるよ。
卒業式も無事終わって、この寮で過ごすのも今夜が最後なんだって考えると、盛り上がりもひと潮――失礼、ひとしおってやつなのかな。
記念すべき在学中最後の晩餐のオカズは勿論、今日のエキシビジョンマッチの敗北。
「わたくしの新技をっ……♡……まるで無視するみたいに、ぁっ♡」
やー、あの光線はほんっとにびっくりしたよ。
ただ、それはそうとして、一本線じゃ体丸ごとの突進を止められる圧力はなかったっていうか。局所的な負傷や痛みで止まるような高速移動じゃないっていうか。
割と相性の問題だった気もするなぁ、うん。
いやでも、やっぱり凄かったっていうか、あんなの誰にも見切れないでしょ。
正直、私が躱せないなら、ほとんどの敵に対して間違いなく先手は取れるだろうし、あの貫通力ならそのまま殺せちゃうと思うし。
うん。
改めて、本当に凄かった。
「……ですがっ、ふふっ、やっと、やっとわたくしの雷撃が、んっ、アニアに当たりましたわ……!」
んま、テラシア的にはこっちの方が嬉しかったみたいだけど。
「ふふふっ、苦節三年……ようやく、あの庶民をっ、分からせてやりましたわっ……!……ぁ、んんっ♡♡」
……まー少なくとも、あの雷撃は当たると滅茶苦茶痛いってことは、良く分かった。
分かったから、分かったから。
「ん゛ん゛っ♡あ゛はっ、痺れる、ぅぅぅっ♡♡」
分かったから、自分の体に電気流すのはやめた方が良いんじゃないかなぁって。
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ♡これが、勝利のっ感覚♡堪りませんわ、ぁ゛っ♡♡」
勝利したのは私の方なんだけどね。
うんまぁ、ずっと彼女が目標にしていた雷撃を私に当てるっていう点では、成し遂げたといっても良いとは思う。
今まで出来なかった、体を覆う雷撃の鎧を出せるようになっていた辺り、出力を完全に制御できるようになったと見て間違いないんだろうけど……そんで多分その末に、私の幽体離脱みたいに、光線っていう終着点に行き着いたんだろうけど……だからって、こんな使い方がありますかい。
ぱちぱちびりびり、危なくない程度にコントロールされた電気刺激に、一層体中を跳ねさせるテラシアに、やっぱり神の御使いなんて肩書は与えちゃ駄目かもしれない。
神の威光の世界一卑しい使い方でしょ、これ。
「このっ♡このっ♡今度、生意気なことを言ったら、っ、こうですわよっ♡♡」
どうやら妄想の中で私をばちばちお仕置きしてるみたいだけど、実際に悦んでるのは彼女の体の方。
「う゛っ♡うぐっ♡♡――……」
どういう精神状態なんだと困惑しきりではあるけど、まあこれでひと段落というか、何段落かはしたし。
「…………」
いつもの感じだとそろそろお開きかな――
「…………ぐす…………」
えぇ、泣き出した……
ついさっきまで別の意味で泣くほど楽しんでたのに、今は紛れもなく悲しみで顔をクシャっとさせながらすすり泣いている。
いや、情緒が不安定過ぎない?
「……もう、卒業ですのね……もう……もう…………っ」
……
……私の、自惚れじゃなければ。
テラシアが学園卒業を泣くほど惜しんでいるのは、多分、私と離れ離れになってしまうから、だと思う。
テラシアは国内でも有数のハンターギルドへの所属が決まっている。
一方私は彼女に、自分はフリーランスで細々やっていくと伝えている。
テラシアのところは規模も大きくて何やら歴史も長い、由緒正しい一流集団。
所属が違う、どころか集団に所属すらしていない私との接点は、限りなく薄くなると思う。
もちろん友達として、交流を続けることはできるだろうけど。隣同士の部屋で過ごして、毎日顔を突き合わせていた今と比べると、どうしたって関係は希薄になってしまう。
それが嫌で、こんな、子供みたいに体を丸めて泣いてるんだろう。
たぶんね。
「……ぐす…………ぐすっ……」
……まー、最後まで表には出さなかったその気持ちを、私がこうして一方的に覗き見ているのが、そもそもズルいことなんだろうけど。
◆ ◆ ◆
「――で。どういうことですの、これは」
「やー、どうって言われてもねー」
あのあほみたいなイカレ脳筋学園卒業から少し経って。
私とテラシアは、でっかい建物の一室で、久しぶりに顔を合わせていた。
ま、言うほど久しぶりでもないんだけどね。
「今日からこのギルドでお世話になる、アニア・ディープマインだよ。よろしくどうぞー」
「これはご丁寧に、わたくし、同じくこちらのギルド所属となりました、テラシア・サンバーストと申します――ではなくって!」
今日から同僚だし、このギルドは基本的に身分とかガン無視するあたおか系実力主義組織だし、その気風に則って握手でもって思ったんだけど…………あ、そう、握手はするのね、うん、そんなににぎにぎしなくたっていいんじゃないかなぁ。
「なにさー、初日からぷんぷんしちゃって」
「なーんで貴女がここに居るのかと聞いているのです!」
「スカウトされたからだけど」
確かテラシアもそうだったはず。
「聞いてませんわよ!?」
「言ってないからねぇ」
「大体貴女、無所属でやっていくって、わたくしにそう仰っていたではありませんの!?」
「そのあと色々あったんだよ」
「色々ってなんですの!?なんで教えてくれなかったんです!?」
「いやだって、卒業してから露骨に私のこと避けてたじゃん」
どーせ、会えなくなる寂しさに耐えるためとか、そんな理由なんだろうけど。
「~~~~!!!!」
まあ実際のところは、在学中にスカウトされたのを一回断って、卒業直後にやっぱり加入を希望するっていう、失礼極まりないくそがきムーブしちゃっただけなんだけど。
トップの人がもうガチの実戦実力至上主義者な脳筋おしとやか猫耳お姉さんだったお陰か、むしろ快く歓迎してくれた。
結果出さなかったらしばき倒しますって言われたけど。
まーでもこれは、露骨な怒ってますアピールじゃ隠し切れないくらい口の端が吊り上がってるテラシアには、今はまだ黙っておこうかな。
どーせ私はズルい女なんだから、彼女の本音を勝手に覗き見たうえで、後出しで一番面白そうなことをする。
それで彼女が悦んで……もとい喜んでくれる限りは、それが一番、私も楽しいから。
「――いやあ、卒業生上位二人を丸ごと抱え込むことが出来るなんて、今年は運が良かったです。お二人とも、活躍を期待していますよ」
件の脳筋おしとやか猫耳お姉さんギルド長が、にこにこしながら言ってくる。
ながーい尻尾もゆらゆら揺れていて、上機嫌なのが一目で分かった。
「ええ、それは勿論、このわたくしの手にかかれば、当ギルドの更なる発展は間違いないですけれども……」
混乱の収まらないテラシアの返答は、字面だけ見れば何とも自信満々な感じだった。
まー私は、しばき倒されない程度にがんばろっかなー。
「あ、お二人は相部屋ということになりますが……まあその様子だと、学園時代も仲が良かったみたいですし、問題はなさそうですね」
「!?!?!?!?」
さっすが福利厚生の手厚さに定評のあるギルド、事前に言われてたとはいえ、住処を保証してくれるのは助かるなぁ。
テラシアはなんか、とんでもない表情で顔を赤と青に点滅させてるけど。
「いや、何分アニアさんが飛び入りだったもので、個別の部屋を用意できなかったんですよね」
「いやぁ、すみません。重ね重ねご迷惑おかけしますー」
「いえいえ、結果さえ出してくれれば、何の問題もありませんよ。ところでアニアさん、荷物の方は……」
「あ、だいじょぶでーす。私の荷物これだけなんで」
トランクケース一つで纏まってしまうこの女子力の低さよ。
「そうですか、では今日のところは部屋でゆっくり、荷解きでもしていてください。夜には歓迎会がありますので」
「了解でーす。……ほら、ぼさっとしてないで早く行くよ」
「――はっ。え、いや、ちょっと待って下さい!?いい、いきなり同棲だなんてっそんなこと言われてもっ――」
ぴーちくぱーちく元気を取り戻したテラシア。
素直じゃない彼女がまた意地を張って、無理やり別室になったりしないように、先んじて黙らせておこう。
「改めて、これからよろしくね。――テ・ラ・シ・ア♡」
ライバルだと思ってたお嬢様が私(庶民)に分からされて悦ぶ変態ツンデレ女だった にゃー @nyannnyannnyann
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