第44話 彼女との仲を取り戻すための当て馬になれ?
この人が芽衣子ちゃんの彼氏さん…!
カジュアルなパーカーとジーンズ姿が様になっている長身の男を凝視した。
サングラスをしていて、顔立ちの全ては分からないが、かなりカッコイイ部類に入るのではないだろうか。
芽衣子ちゃんの隣に並ぶと美男美女でいかにも映えそうだった。
そう。当て馬役の俺なんかと並ぶより、よっぽどお似合いだった。やっぱ本命は違うよな…。
そう納得しながら、俺は芽衣子ちゃんの側から少し離れ、二人の様子を見守った。
彼氏さんは何かブツブツ呟きながら、しきりに首を捻っていた。
「(えーっと、次のセリフ何だっけ?)」
「(もう、やるんだったらやるでちゃんとセリフ覚えててぇっ…!)」
芽衣子ちゃんは感動しているのか、半泣きで両手で顔を覆っていた。
「あっ。そうだ!」
何かを思い出したように、ポンと手を叩くと
彼氏さんは、芽衣子ちゃんに人差し指を突き付けた。
「ソンナ、ウワキヲスルヨウナオマエニハ、アイソウガツキタゼ。
モウ、ワカレ…!?」
「静司くん、何してんの!?」
突然そのとき、芽衣子ちゃんと彼氏さんの間に割って入るように、一人の女の子が飛び込んで来た。
突然乱入してきたその女の子は、2つのお団子をアクセントにしたゆるふわロングのワンピース姿のかなりの美少女で、目に涙をためて、彼氏さんと芽衣子ちゃんを睨みつけていた。
彼氏さんは驚いて、かけていたサングラスを外して、目を見張った。
「み、
「最近静司くんの様子が怪しいから、今日、家から後を付けて来てたの。そしたら、案の定、こんな…!その女の人は誰なの?何で静司くんはその人を付け回して、浮気とか言ってるの!?」
呆気にとられていた芽衣子ちゃんは、汗を流しながら、恐る恐る彼氏さんに聞いた。
「え、え、えーと、静くん?この子は一体?もしかして、もしかしたらだけど…彼女…さん?」
「そうだよ!バカ芽衣子!!」
彼氏さんは噛みつくように叫んだ。
「「ええーっ!?」」
俺と芽衣子ちゃんは同時に叫んだ。
もしかして、彼氏さん二股?!
と思ったら、芽衣子ちゃんの様子もおかしかった。二股かけられている筈なのに、慌てふためきながら、彼氏さんに謝っている。
「どどど、どうしよう?静くん、ゴメン!!」
「バカ芽衣子ぉ!だから俺はヤダって言ったんだよ。こうなったら、全部正直に言うからな!お前も、彼女の誤解解くのに協力しろよ?」
「わ、分かったぁ!」
芽衣子ちゃんは必死に頷いていた。
「美湖、これは違うんだ…。誤解なんだ。」
彼氏さんは、涙目のゆるふわ美少女を宥めるように話しかけている。
「芽衣子ちゃん…?」
状況が飲み込めない俺が芽衣子ちゃんに問いかけると、芽衣子ちゃんは泣きそうな表情でで話し出した。
「京先輩、騙しててごめんなさいぃっ!!彼氏がいるなんて嘘なんです!!
嘘コクのミッションの設定にできるだけ近付けようと思って、義弟に偽の彼氏役を頼んでいたんです…。」
「ええーっっ!?」
俺は芽衣子ちゃんに衝撃の事実を告げられ、ショックを受けた。
確かに話を聞くだに、不思議な関係の彼氏とは思っていたけれど…。
あのイケメンは彼氏じゃなくて芽衣子ちゃんの義弟さん?
だとすれば、義弟さんが芽衣子ちゃんの彼氏役として後を付けていたところを、あの彼女さんが更に尾行し、俺との仲を問い詰めているところを見て、芽衣子ちゃんとの仲を誤解したという事か?
ああ、ややこしいな…!
「ごめんなさい、京先輩…!!」
必死に頭を下げて謝ってくる芽衣子ちゃんを手で制した。
「俺とはまた後で話そう。今はあっちの彼女と義弟くんとの間の誤解をまず解こう。
どこか、落ち着いて話せる場所に移動しよっか。」
「は、はいっ。」
狭いゲーセンの中は、何の騒動かと見に来る野次馬が、俺達の周りに沢山集まって来てしまっていた。
俺と芽衣子ちゃんは、彼女と義弟くんの方に駆け寄って声をかけると、ゲーセンの出口へと誘った。
*
*
*
取り敢えず、近くの喫茶店に入ってテーブル席について、飲み物を頼んだものの、俺、芽衣子ちゃん、義弟さん、義弟さんの彼女の間には気まずい雰囲気が漂っていた。
「あたし、
義弟の彼女さん=新庄さんは、取られまいとするように、隣の席の義弟さんの腕をがっちり掴んで、向かいの芽衣子ちゃんに挑むような視線を送っていた。
芽衣子ちゃんは、汗をハンカチで拭きながら、彼女さんに頭を下げた。
「新庄さん。今日は静くんとの仲を誤解をさせるような事をしてしまって、本当にごめんなさい。静くんの義姉の氷川芽衣子です。」
「義姉さん…。あなたが…!」
新庄さんが、驚いたように、目を見張った。
「ホラ、言ってたろ?前に、性格のヤバイ、とんでもなく姉がいるって。」
義弟さん言いたい放題だが、芽衣子ちゃんはピクリと肩を揺らしたのみで、この状況下では反論の余地もないようだった。
「その…、私、告白のシチュエーションを演じるのが趣味でして、今回は当て馬というテーマでこちらの矢口京太郎先輩と、静くんに協力してもらっていただけなんです。誤解を与えてしまって、ごめんなさい。
静くんとはただの姉弟でそれ以上の関係には全くないんです。信じて下さい…。」
「今回の件で、その姉弟の縁も切りたいくらいだけどな!」
「ううっ。そんなぁ…。」
義弟さんの厳しい言葉に、芽衣子ちゃんは涙目になり、肩を落としている。
新庄さんは、眉間に皺を寄せて、首を傾げた。
「うーん。告白のシチュエーションを演じるのが趣味ねぇ…。大分頭イタイ趣味だと思いますが、こっちに迷惑かけなければとやかくは言いません。でも、なんかしっくりこないなぁ…。
特に演劇の道を目指してるとかでもなく、好きでもない男の人に告白したりされたりするの、普通の女の子なら嫌じゃないですかぁ?」
「い、いや、それは、その…。」
新庄さんに指摘され、芽衣子ちゃんはタジタジになっている。
「もしかして、趣味にかこつけて、意中の男子にアプローチを測ってるんじゃないですか?」
「え、ええっ?」
芽衣子ちゃんは、カァーっと耳まで赤くなった。
困って、縋るようにこちらを見てくる芽衣子ちゃん。
や、やめろって!その目は並の男子なら誤解するって言ってるだろ?
「やっぱり!さては、お義姉さん…!」
「!!」
「やっぱり静司くんを狙ってるんじゃないですか?」
「ええ?そっちー!?」
芽衣子ちゃんは、ガクッとして、上体をテーブルに突っ伏した。
「だって、悪いけど、静司くんとそこのお兄さんと比べたら、10:0で静司くん選ぶでしょ?背高いし、イケメンだし、強いし、男らしいし。お義姉さん、美人だし、そこのお兄さんとじゃ、正直釣り合わないし。」
「なっ!?」
「はは…。まぁ、確かにな。」
俺は苦笑いした。
ひどい言われようだが、確かにイケメン長身の義弟さんとフツメン、身長普通の俺と比べたら、女の子がどちらを選ぶかは明白だった。増してや、芽衣子ちゃんみたいな美少女にどちらが似合うかというと…。
「お、おい、美湖!」
義弟さんが顔色を変えて、新庄さんを諌めるように呼びかけた。
「えっ。だって、本当の事でしょ?」
「何を言ってるんですかっ?!」
芽衣子ちゃんは、ガタンッと音を立てて、席を立った。
体中に怒りのオーラが溢れている。
無論、ポニーテールの髪も、逆立っている。
「めめ、芽衣子ちゃん?」
芽衣子ちゃんの突然の覚醒に俺は慄くばかりだった。
「10:0で京先輩でしょうがっっ!!?
新庄さん、ちゃんと目ぇついてんですかっ?」
「ひっ!」
怒りを向けられた新庄さんは恐怖のあまり涙目になった。
「京先輩、メッチャ可愛い顔立ちしてるじゃないですか!
私が何か変な事言っても、困ったように眉を下げて、フニャッて笑ってくれるの。
それはもう、キュン死にしそうなくらい、眩しくて素敵な笑顔なんです!
茶髪も似合ってて、カッコイイし、
背だって私より高いし、骨っぽいし、
「芽衣子ちゃん」って、優しい声で呼んでくれるとドキドキするし、近くに寄ると、男の子っぽい、すっごくいい匂いするんですよ?
それに、京先輩は、自分が辛い状況にいるときでも、保身を考えず、人の為に行動できる思いやりがある男らしい人なの!!
私には釣り合わないぐらい尊みに溢れた人なんです。
静くんは、女の子にもてるかもしれないけど、マイペース過ぎるし、第一義弟じゃないですか。それに、京先輩の方が断然いい匂いするし!!」
芽衣子ちゃんは一気にまくし立てるように言い切って、荒い息をついた。
芽衣子ちゃんの勢いに圧倒されて、その場の誰もが暫く言葉を発せなかった。
芽衣子ちゃんのまるで告白のような発言に
俺は顔がかあーっと熱くなった。
うおおぅ!芽衣子ちゃん、俺の事そんな風に
…!新庄さんから庇うためとかお世辞だったとしても恥ずかしすぎる!!
しかも、匂いの事2回言っちゃった!?
自分じゃ気付かないけど、俺そんな匂うの?
芽衣子ちゃんは、3人が固まっているのに気付いてハッとすると、顔を赤らめて指をもじもじ動かしながら、ポソっと付け足した。
「い、いや、あの…、一般論…ですけどね?」
「いや、流石に無理がない…?」
俺は苦笑いした。
義弟さんは、呆けていた新庄さんに何やら耳打ちした。
「!!」
新庄さんは青くなって、芽衣子ちゃんと俺に頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。お義姉さん。お兄さん。お兄さんの事、バカにするような言い方をして、素敵な方だっていうのはよく分かりました。」
「い、いや、いいよ。」
「ちゃんと、分かってくれました?」
「は、はいっ。私が間違ってました。お二人はとってもお似合いだと思います!」
「え。」
芽衣子ちゃんは両手を頬に当てて真っ赤になった。
「静司くん、試合前でキックボクシングの練習が忙しいって、最近休みでも全然会ってくれないし、不安になってて…。お義姉さんはよく練習に付き合っているって聞いたら、私は会えないに何でって嫉妬しちゃってたんです。」
「美湖…。そんな風に思ってたのか。ごめんな…。」
義弟さんは、しゅんと俯く新庄さんの頭を撫でた。
「新庄さん。静くんが、最近練習を張り切っているのは、あなたという大事な彼女に試合でいいところを見てほしいからだと思いますよ?」
「お義姉さん…。」
「お、おい、芽衣子…!急に姉貴風ふかして、余計な事言ってんじゃねーよ!」
「だって、姉貴だもん。仲がいいとは言い難い姉弟だけど、一緒に暮らしてれば、それぐらい分かるよ。
新庄さん。マイペースで口下手な義弟だけど、あなたの事大事に思ってるのは、確かだから、信じてあげてね。」
「はい…。」
芽衣子ちゃんの言葉に感じ入った様子で新庄さんは頷いたが、すぐに義弟さんの突っ込みが入った。
「お前が、変な頼み事するから、余計に拗れたんだけどな?」
「そーだった!絆されるところだった。
お義姉さん、もうこんな事静くんに頼まないで下さいね!」
「そそ、それは本当にごめんなさい。」
芽衣子ちゃんは再び小さくなった。
義弟さんはニヤリと笑って、新庄さんの肩を抱いた。
「なぁ、美湖。誤解も解けた事だし、これから仲直りデートでもしないか?優しいお義姉さんが、資金をくださるんじゃないかな?」
「まぁー、それは有り難いですねぇ。ありがとうございます?優しいお義姉さん?」
そう言って、新庄さんは、芽衣子ちゃんを上目遣いで見て、目をパチパチ瞬かせた。
「も、もちろん。お義姉さんに任せなさい?」
芽衣子ちゃんは引き攣った笑顔で、親指を立てた。
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