第43話 彼氏との仲を取り戻すための当て馬役にしろ!

俺と芽衣子ちゃんは駅前のゲーセン『ネオ』の店内の通路を歩いていた。


「へー。結構混んでますね…。」

芽衣子ちゃんは物珍しそうに周りをキョロキョロして、学生など、主に若い世代の人達が友達同士やカップル同士、アーケイドゲームに興じる様子を眺めていた。


「一応入る前、菱山の奴がいないかは確認したけど、何かあったら、すぐ教えてね?」


「はい。」

芽衣子ちゃんは笑顔で答えた。


「なんか、すみません。本当は、お友達の代わりに一緒にゲーム出来たらと思ったんですが、私の要望だけ叶えてもらう事になっちゃって…。」


「いやー。そんなのいいよ。ただでさえ今日は、俺の行きたいとこばっか回ってもらってるんだから、少しぐらい芽衣子ちゃんのやりたいこと言ってもらわないと、逆にこっちが申し訳なくなっちゃうよ…。あ、アレかな?プリクラの機械。」


店の奥の方にいくつか、カーテン付きのプリクラの機体が何台かあった。


「うーん、どれにしようかな~、目を大きく補正してくれるのと、動画にしてくれるもの、ん?期間限定カップル専用なんてのもありますよ?京先輩、せっかくですから、これやってみませんか?」


「ええー?いやー、それは流石にハードル高いかな?ただでさえ、芽衣子ちゃんと一緒にプリクラなんて気後れしちゃうのに。」


「ええっ!?京先輩、私とプリクラ撮るの嫌ですか?そ、そうですよね。京先輩、尊みが深すぎて、私なんかと一緒じゃ、釣り合い取れないですよね?分かりました。かくなる上は、京先輩お一人で撮られたものを私めに分けて頂ければ…!」


芽衣子ちゃんは、その場に跪き、頭を垂れるポーズをとったので、俺は周りの視線を気にしながら慌てて否定した。


「ちょっ…!違う、違う!逆だよ。俺が普通過ぎて、可愛い芽衣子ちゃんに釣り合わないって言ってるの!跪くのやめてって。」


「か、かわ…!!?」


「プリクラ一人で撮るなんて、証明写真みたいで痛すぎるよ。分かった。俺が悪かった。どれでもいいから、一緒に撮ろう!」


「いいんですかぁっ?ありがたみがふか寄りのふかです!!」

芽衣子ちゃん、それ語法合ってるのか?俺もあんま知らないけどさ…。


「では、いざ、参りましょう!」


芽衣子ちゃんははしゃいだように、カップル用のプリクラ機体のカーテンをめくった。


奥にプリクラの機械がある。


カップル用というけど、見た感じ、普通のプリクラの機械と変わらなくないか?

俺はちょっとホッとしたのだが…。


お金を入れると、機械の音声が流れ始めた。


『最初にポーズを撮ってね?僕たちに負けないくらい位ラブラブポーズ決めちゃってね?』


画面には、白とピンクのウサギのキャラクター二匹が仲よさげに寄り添って、それぞれ頭の上で腕を丸く組み合わせてハートの形を作ってポーズをとっているイラストが表示されていた。


「京先輩、もうちょっと寄ってください。」

「お、おう。この位?」

「い、いいと思います。」


俺と、芽衣子ちゃんは目の前に写っている画像を確認しながら、ぎこちなく寄り添った。


『あ、でもね、手を繋いだり、キスしたりまでのラブラブポーズはオッケーだけど、それ以上の行為はここではしちゃダメだよ?良い子のカップルの皆、分かったかな?』


「「!!?」」


何だよ、この注意事項?

確かにここ、周りからカーテンで区切られてて、パッと見、見えないし、中には良からぬことをするカップルがいないわけじゃないのかもだけど…。


そんなラブラブ行為とは無縁のただの嘘コクデートをしている俺達にそんな事言われても、セクハラもいいとこだ。


「さ、さすが、カップル用…。過激な事言いますね…?」

「な、なぁ?わざわざそんな事言わなくてもいいのにな?」

俺と、芽衣子ちゃんはお互いに照れたような顔を見合わせて、また逸らした。


『ハーイ。じゃ、一枚目、撮るよー!お二人さん、寄って寄って?チューまではオッケーだからね?』


「「!!」」


再びのセクハラ!本当に何なんだよ、この機体!?早く撮ってくれよ!!


俺も芽衣子ちゃんも、赤い顔で、精一杯笑顔を作った。

『3、2、1、カシャッ』

  

         *

         *

         *


「ハイ。京先輩の分!」

芽衣子ちゃんは近くに備え付けられていたハサミで、半分こにしたプリクラのシートの片割れを俺に渡した。


「あ、ありがとう…。」


機械音声のセクハラに耐え、なんとか撮り終えたプリクラだったが、写真の質はよく、キレイな仕上がりとなっていた。

傍から見れば、カップルのような距離感で寄り添う俺と芽衣子ちゃんの小さな写真がシートに沢山印刷されていた。


俺はちょっと照れてしまい、鼻の頭を掻いた。


「思うんだけど、プリクラって、なんでこんなに沢山印刷するんだろうな。結局使い切れなくて、引き出しにしまったままにならないか…?」


「え。そうですか?持ち物に貼ったり、友達にあげたり、保存用に少し残したりって考えたら、足りないくらいじゃないですか?」


「そ、そうなんだぁ…。」


そうやって使うのか。

さすがリア充の芽衣子ちゃん、多分友達沢山いるから、人にあげてる分多いんだろうな。


「今撮ったのは、勿体なくて人にあげたりはしませんけどねっ。スケジュール帳とカレンダー、生徒手帳、文房具、あっ。あとマグカップとかも!何なら拡大コピーして、壁中に貼ったり、ラミネート加工して、枕の下とかに…!きゃあっ!!」


「…………。」


盛り上がっていた芽衣子ちゃんだが、ドン引きしている俺と目が合うと、コホンと咳払いをした。


「じょ、冗談ですよ?そ、そんな菱沼さんみたいなストーカーがやりそうな事はしませんけどね?」


冗談だったらしい。

俺はホッと胸を撫で下ろした。


「…にしても、京先輩、その言い方、前に誰かとプリクラ撮った事あるんですか…?」


「え?」


おかしいな。俺の目がおかしいのだろうか?そう問いかけてくる芽衣子ちゃんの笑顔に般若のオーラが見える。


が、俺が答える前に、芽衣子ちゃんは、俺の後ろにいる誰かを見つけて、驚いたような表情になった。


「芽衣子ちゃん…?」


「芽衣子…?」

後ろを振り返ると、180センチはあろうかという長身のサングラスの男が近付いてきた。


「芽衣子ちゃん!」


菱山と似た背格好の男の接近に、思わず芽衣子ちゃんを腕をとり、逃げようとしたが…。


「メイコ。ソノオトコハダレダ!ウワキカッ?」


カッコイイ外見とは裏腹に、さっきのプリクラの機械音声よりも平坦な声で、その男は問いかけてきた。


「(静くん…。棒読みにも程がある…!しかも、カツラしてないし…。)」

額に手を当ててため息をつく、芽衣子ちゃんとその男を交互に見比べる。


ん?芽衣子ちゃんのこの反応。もしかして、この人が…。


「今度こそ彼氏さん?」


「え、ええ、まぁ…。」


芽衣子ちゃんは引き攣った笑みを浮かべた。



*あとがき*


いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。

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