第27話 秋川栗珠 茶髪美少女を襲う
「信じられない。あいつ!氷川芽衣子!何が『こういう告白シーン作るの大好きでぇ。』よ!ぶりっ子が!気遣ってやったのに、校内放送で先輩を蔑ろにして…。目にもの見せてやる!」
休み時間、自動販売機横のゴミ箱を蹴っ飛ばしつつ、私は絵里と夏菜子にずっと抑えていた胸の内をぶつけた。
「絵里も夏菜子も、あいつ1年のくせに目立ってムカつくって言ってたよね?あいつぶっ潰してやるための、何かいい案ない?」
私が持ちかけると、絵里は夏菜子と気まずそうに顔を見合わせた。
「言ってたけどさぁ、その…、今はやめとかない?あいつ校内放送で注目されてるし、人目がある中、なかなかチャンスもないだろうし…。」
いつになく、弱気な絵里の言葉に私は苛立った。
「そんなのは、人気のないとこに呼び出すとか、いくらでもできるでしょうが!」
「それに、少し前に、あいつと中学一緒だった友達と話したんだけどさ、その子に言われたんだよね。バカな事は言わないから、氷川芽衣子にだけは絶対手を出しちゃいけないって…。」
夏菜子も神妙な顔でそう言ってきた。
「どう言うこと?親がヤクザとか?もしくは、お偉いさんとか?」
「いや。親じゃなくて、本人がヤバイみたい。何があったか教えてくれなかったんだけど、その子、アイツの話してるときずっと震えてたんだよね…。」
そう語る夏菜子の顔も少し青ざめていた。
「はあ?あの天然頭お花畑女のどこに恐れる要素があるわけ?大げさに言ってるだけじゃないの?そんなの気にする事ないでしょ?」
「ごめん。栗珠。とにかく、アイツに関わるのは止めとくわ。アタシも、命は惜しいし…。」
「夏菜子!」
「うちも止めとくわ。栗珠とこうゆう遊びするの楽しかったけどさ。そろそろバレたら、内申にも響くしさ。あ。また合コンあったら、呼んで?」
「絵里!」
二人はそそくさと飲み物を片付けると休憩所から去って行った。
何よ?あいつら!
これまで、あいつらの為に合コン手配してやったり、ムカつく奴がいたら、締め上げてやったり、散々協力してやったのに!
いざとなったら、友達見捨てて逃げやがって!
あいつら、いつか後悔させてやる!
でも、まずは、氷川芽衣子。アイツだけは何としてでも、潰す!
今いるグループの男子達は見てくれはいいけど、度胸も、頭もなさそうだから、こういう
何かあの女の弱味になるようなものは…。
そうだ!嘘コク男の矢口!
あの女の矢口を見る目…。
あれは確かに恋をしている瞳だった。
矢口を目の前で奪ってやったら、あの女はどんな顔をするだろう?
私はあの女の泣きわめく様を想像してニヤリと笑った。
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陰キャの矢口を取り込んで、氷川芽衣子を陥れてやる筈だったのに…!
何故、こんな事になっているの!?
矢口はスマホの画面を私の前にかざしてきた。
私はその画面にボイスレコーダーのアプリが表示されてるのを見て、青ざめた。
「なっ!もしかして、今の…、録音して…!」
「っていうか、今まで何度も騙されてんのに、何の対策もしてないと、何で思えるんだよ?本当にお前、俺の事バカにしてんな!
今の録音データ、誰にあげたら一番面白いかな?お前に虐げられていた子?先生?あ、田橋くんあたりなら、うまく編集してお昼の放送で流してくれるかもなー。」
「や、やめて!!何でもするから、それだけは!データ消して。私、明日から生きていられない!」
私は必死に矢口に取り縋った。
こいつはお人好しだから、情に訴えればきっとなんとかなる筈!
しかし、そんな私に矢口は冷たく告げて来た。
「データは消さない。お前の弱味を握っとく必要があるからな。」
「そ、そんな…!」
私は愕然とした。
「俺からの要望は、
芽衣子ちゃんには手を出すな!
これ以上俺達に、関わるな!それだけだ。
これだけを守ってくれたら、データは誰かに渡したり、広めたりすることはしない。秋川。分かったな…?」
「〰〰〰!!」
「じゃ、明日学校でな。リア充で天使な秋川さん。」
私の手をぞんざいに振り払うと、矢口は屋上の扉の向こうへと消えていった。
「どうしてこうなるのよぉ!クッソお!陰キャの腹黒クソ男!!この私にこんな仕打ちしやがって!絶対許せないんだから!!畜生!
覚えてろよー!!!」
私の必死の叫びは虚しく空へと消えて行った。
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私は屋上を出ると、絶望的な気持ちで、ふらふらと階段を降りていた。
どうしてこうなったの?
今までちゃんと上手く行っていたのに。
校内放送では、私の人気を更にあげ、あの女を貶めてやれる筈が、逆にあの女を学校の人気者にする結果になってしまった。
今まで協力してくれていた、絵里と夏菜子からも見離されてしまった。
散々嘘コクのうわさを流してやった陰キャの矢口は、利用してやるどころか、私の本性を録ったデータをもとに、私を脅してくる始末。
あの女のせいで、何もかもが、めちゃくちゃになってしまった。
そうだ。全部、あの女がいけないんだ…。
私はあの女へのあまりの憎悪に視界が赤黒く染まるように感じていた。
「あの、すみません。2年の秋川先輩ですかぁ?」
気付いたら、目の前に今どきないような分厚いぐるぐるメガネをかけたショート・ボブの女の子が立っていた。
「そうだけど、何か?」
片手に持っていたネット入りのバスケットボールを私に差し出され、私は思わず受け取ってしまった。
「?」
「これ、中庭に落ちてたんですけど、柳沢さんの忘れ物みたいで。クラスメートですよね?渡しておいて下さい。」
「ええ?ちょっと待って?」
「じゃ、よろしくお願いします。」
断ろうとすると、既に女生徒は私に背を向けて、廊下の方へ行ってしまっていた。
げ。
なんでよりによって、梨沙の持ち物を私が。
バスケットボールに2−D柳沢梨沙と書いてあるのを見て、顔を顰めていると、階下で調子っぱずれの鼻歌が聞こえてきた。
階下を覗き込むと、一人の女生徒が、階段をぴょんぴょん跳ねるように降りていくのが見えた。
氷川芽衣子だった。
機嫌が良さそうに鼻歌を歌っている。
私はその姿に怒りと憎しみを掻き立てられた。
そりゃ、あんたは、楽しいでしょうよ!
校内放送で、学校の人気者になり、想い人の矢口はあんたの絶対的な味方で
皆から愛され、守られてさぞかし、良い気分でしょうよ。
でも、あたしはあんたのせいで、今日多くのものを失った。
私は悔しさに唇を噛み締めると、ふと、視界にバスケットボールが目に入った。
これ、梨沙のバスケットボール…。
もし、これが今、彼女に当たったらどうなる?
氷川芽衣子はケガをし、持ち主の梨沙は犯人に疑われる。
梨沙が矢口へ嘘コクしたのは周知の事実。
校内放送で、矢口と氷川芽衣子がいい雰囲気だったのは、全校生徒が知っている。
実は梨沙が矢口に想いを寄せていて、氷川芽衣子への嫉妬で凶行に及んだと噂が流れれば、梨沙、柏木、矢口、氷川芽衣子の四角関係が騒がれ、人間関係はグチャグチャになる。
厚底メガネの女は私の存在を言うかもしれないけど、梨沙に渡したと言い張ればいいし、いざとなったら、あんな陰キャ、後でいくらでも黙らせられる。
学校で人気の私と、嘘コク女の梨沙、陰キャの女、皆がどちらを信じるかは明白。
うん。問題ないわ。
私はニヤリと笑うと階下の氷川芽衣子に気付かれないように、距離を詰めた。
そして、自分が彼女から見えない位置から手の平だけでバスケットボールを持ち、その頭上に向けて勢いよく振り下ろした。
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