第25話 天使のメッキが剥がれた素顔

その後、自分のクラスに戻ると、学校放送を見たクラスの皆に質問攻めに遭い、大変だった。


マサとスギには羨ましがられ、柳沢は終始

ニマニマしてこっちを見て来た。


そして、秋川は、取り繕ったような笑みで、

リア充男子に校内放送について語っていたが、俺にはほとんど視線を合わせなかった。

秋川の取り巻き、森下と坂井はそれを遠巻きに見て、何故か若干居心地悪そうにしていた。


廊下に出ると、他のクラスの生徒からも視線を感じ、トイレに行けば、隣で用を足してる知らない奴から「放送良かったぜ?」と話しかけられる始末。

驚いて出るものも引っ込むからやめてくれない?


陰キャでカースト最下位の俺にとって、リア充からの無茶ぶりや、蔑み、嫌味の言葉を

やり過ごす会話術は持っていても、多くの人からこういう純粋な称賛、好意的な興味を向けられるのは初めてで、どう反応したらいいものやら、対応に困った。


今までクラスのリア充男子を羨ましいと感じていた俺だが、彼らが毎日こんな期待に満ちた視線を向けられる重責に耐えているのなら、考えを改めなきゃいけないな…。


陰キャ、カースト底辺最高だったぜ!


校内放送の記憶が早く皆から薄れてくれるよう、俺は心より願った。


その日の最後の授業が終わるやいなや、そそくさと帰り支度をし、誰にも話しかけられない内に、教室を出ようとしていた俺を秋川が呼び止めた。


「矢口くぅん。ちょっと話あるんだけど、いいかな?」


天使のメッキがはがれ、そこには憎悪と怒りに引き攣った醜い笑顔があった。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


秋川に屋上に連れてこられた俺は、

辺りを警戒してキョロキョロと見回した。


「何キョロキョロしてるの?私以外誰もいないわよ!」


秋川に苛立ちながら、そう告げられると、

俺はホッと胸を撫で下ろした。


「あ、そう。それなら、良かった。」


なんだ、びびったー。

いきなり呼び出されたから、秋川の息のかかった、屈強な野郎共にボコボコにされんのかと思ったぜ。


「で、何?話って?」


「矢口くん。私と付き合って。」

??

俺は耳を疑った。


「秋川。いくら、俺がバカだからって、同じ奴に2回目の嘘コクは通じねーぞ?」


一応親切に教えてやった。


「今度は本当よ!」


秋川はムキになって叫んだ。


「こんなに可愛い女の子が彼女になるのよ。この顔も身体も皆あなたのものになる。

嬉しいでしょ?

私と付き合えば、自動的にカースト上位のグループに入ることになる。周りの矢口くんを見る目も違ってくるわよ。」


そう言う秋川の顔は、やはり俺への好意などかけらもなく、その醜悪さに俺はため息をついた。


「代わりに何が狙いなんだ?」


「あの女、氷川芽衣子とは縁を切って!

あの女、この私を踏み台にして目立って人気をとるなんて、許せない!吠え面かかせてやる!」


「俺に芽衣子ちゃんを陥れる手伝いをしろと…?」


「別にあなたは何もしなくてもいいわ。そんな期待かけらもしてない。

ただ、慕っている先輩を奪われるだけで、あの女にとっては打撃になるはずだから。」


「いや、一昨日会ったばかりの先輩が、誰のものになろうが、芽衣子ちゃん気にしないと思うけどな。買いかぶり過ぎだぜ。」


「それは、やってみなければ分からないでしょう?それに、そうだったとしても次の手を考えればいいだけよ。」


「また、柳沢のときみたく、悪い噂流して、評判を下げるのか?」


「それは矢口くんの知ったこっちゃないわ。」

秋川は不敵に微笑んだ。


「秋川ぁ。今の自分の悪人面、鏡で見てみろよ。今の顔のお前見たら、俺でなくても、誰も付き合いたいなんて思わないぜ?」


「!!」


校内放送で自分より芽衣子ちゃんの方が人気を得たのが、そんなにショックだったのだろうか。

それとも、取り巻きの森下、坂井と何か不和でもあったせいだろうか。


焦って、悪手に悪手を重ねる秋川は見ていて哀れな程の没落ぶりだった。


感情のままに、睨み付けてくる秋川は、せいぜい三下の小悪党ぐらいの風格しかなかった。


「やっと天使の仮面剥がれたな。

なぁ秋川。お前、取り巻きはどうしたんだよ?嫌いな俺に取り入ってまで、お前もヤキが回ったよな。

俺はずっとお前を恐ろしい奴だと、思っていたけど、今日その考えが変わったわ。

お前は弱い奴だったんだ。人を利用して、人を陥れる事でしか自分を保っていられない、可哀想な奴だったんだ。」


「言わせておけば…!ちょっと放送で人気出たからって調子乗りやがって!陰キャの底辺野郎のくせに!!」


おーおー、ちょっと突つけば、ボロ出てくる出てくる。言葉悪りーな!


「芽衣子ちゃんはお前なんかより、ずっと強いよ。お前がどんな企みをしようが、あの子は絶対に思い通りにはならないし、負けない。俺が絶対そうさせない…!」


俺はボイスレコーダーのアプリが起動したスマホの画面を秋川の前にかざしてやった。


「なっ!もしかして、今の…、録音して…!」


「っていうか、今まで何度も騙されてんのに、何の対策もしてないと、何で思えるんだよ?本当にお前、俺の事バカにしてんな!

今の録音データ、誰にあげたら一番面白いかな?お前に虐げられていた子?先生?あ、田橋くんあたりなら、うまく編集してお昼の放送で流してくれるかもなー。」


「や、やめて!!何でもするから、それだけは!データ消して。私、明日から生きていられない!」


必死に俺に取り縋ってくる秋川に俺は冷たく告げた。


「データは消さない。お前の弱味を握っとく必要があるからな。」


「そ、そんな…!」


「俺からの要望は、

芽衣子ちゃんには手を出すな!

これ以上俺達に、関わるな!それだけだ。

これだけを守ってくれたら、データは誰かに渡したり、広めたりすることはしない。秋川。分かったな…?」


「〰〰〰!!」


「じゃ、明日学校でな。使秋川さん。」


絶望的な表情の秋川の手を振り払うと、俺は構内へと戻ってた。


扉越しに、秋川が俺に対する悪態を叫んでいるのが聞こえたが、心に響くものは何もなかった。

ただ、負け犬の遠吠えって正にあんな感じだろうなと思っただけ。



*あとがき*


いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。



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