8回目の嘘コクは幼馴染みからでした
東音
嘘コク一人目
第1話 告白からの選択
「あの、矢口先輩…。ずっと前から好きでした。私と付き合って下さい…。」
目の前の美少女は頬を染めて、緊張した様子で俺の返事を待っていた。
ここは学校の屋上。
フツメンで特にこれといった取り柄のない
俺=矢口京太郎(16)は4月半ばの水曜、下駄箱に手紙をもらい、呼び出しを受けた。
昼休みに待ちあわせ屋上に向かった俺を待っていたのは、S級ランクに可愛い後輩女子だった。
もうね、最っ高だよ!
セミロングのサラサラの茶髪を風に靡かせて、大きな瞳をうるうるさせて、照れたような表情を浮かべている純真無垢な感じ、第一ボタンまできちっと留めた制服姿、程よく大きな胸の前で、両手を組み合わせている清楚な様子といい、性格と品の良さが窺える。
こんな子が彼女になってくれたら、毎日どんだけ幸せな生活を送れることか。
本来なら、涙を流して彼女の告白を受け入れた事だろうよ。
今まで俺が7回も嘘コクを受けていなかったらの話だが。
俺は周りを見渡して、取り敢えず誰もいなさそうなのを確認すると、彼女に話しかけた。
「えーと、一年の氷川芽衣子さんって言ったっけ。」
「は、はい!」
「どれがいいか選択してくれるかな?」
「はい?」
頭にハテナマークを浮かべて首を傾げた後輩=氷川さんに俺は続ける。
「1、俺が告り返したところを速攻で振る
2、告られて俺が大喜びする様子を動画で撮る
3、彼氏との仲を取り戻すための当て馬役にする
4、俺が調子こいて襲い掛かってきたところを金蹴りして逃げ出す
5、お財布代わりにする(限度額あり)
6、人手不足のためこき使う
7、取り敢えず、その場は付き合っているフリをして、いい気になっているところを後日皆の前でドッキリでした…とバラす。
さぁ、どれがいいかな?」
「の、のぇ?な、なんですかその選択肢は??」
氷川さんは目を丸くして慄いていた。
どうやら、ドン引きらしかった。ちょっと、説明が足りなかったかな。
「だから、嘘コクに対しての俺の反応だよ。」
「嘘コク?!」
「ああ。もうネタはあがってんだよ。君みたいな可愛い子が本気で俺なんかに告白するワケないだろ?」
「か、わ、い…?」
氷川さんは急にプシューと湯気が出るほど真っ赤になった。
ん?可愛いって言葉に反応したんか?
いや、まさかね。こんだけ可愛ければ言われ慣れてるよね?
俺は氷川さんの気持ちに寄り添うような言葉がけを心がけた。
「分かるよ。入学して初めてできた友達に無茶振りされて、断れなかったとか何か事情があるんだろ?
俺は今まで7回も嘘コクされた先輩として有名だし、ターゲットにはもってこいだろうし…。」
「え?7回も嘘コクって…!!まさか、そんな事…!!」
氷川さんは青ざめて両手で口元を覆った。
「あ、そうそう。正確な回数は知らなかった?中学の同級生に、クラスメイト、サッカー部のマネージャー、図書委員、友達の妹、風紀委員の先輩、同じ部活の部長で計7名。
もはや、嘘コク対応のプロと言っても過言ではないね。
その俺から言わせてみれば、氷川さんの嘘コクはまだ詰めが甘いね。
一年生で入ってきたばかりで、ずっと前から好きだったはないんじゃない?嘘だってすぐバレるよ。」
「え?い、いやそれは、あの…。」
途端にあわあわし出す氷川さん。
言い当てられて慌てる様子さえ、可愛らしい。
「でも、そんな氷川さんだからこそ、今までの嘘コクの中で、一番腹が立たなかったよ。むしろ、こんな可愛い子と二人きりで話す機会ができて、ラッキーだったぐらいな。」
「また、か、かわ…。あうぅ…!!」
氷川さんは何かを耐えるように身悶えた。
やべ。ちょっとキモイ事いっちゃったかな。
今のはイケメンならいざ知らず、フツメンの俺には許されないセリフだったかもしれない。
「そんな氷川さんに敬意を評して、今回は君が困らないように、お望み通りの対応をしてあげるよ。さあ、どの選択肢がいいかな?」
「あの、矢口先輩!!」
見れば氷川さんは顔を真っ赤にして頬を膨らませていた。
「お、おう…?」
ん?嘘コクに対してこんだけ、親切に対応してあげているのに、何か不満だったかな?
考えられる事といえば、嘘コクに対して一切の驚きもなく、即座に見破ってしまった事か?
んー、でも7回も嘘コクされた奴に、嘘告コクに対して新鮮な驚きを求められてもねぇ。
向こうも、嘘コクされ慣れててハードルが低いからってんで、俺をターゲットにしてんだろうし??
「あの…ねぇ。」
それから、氷川さんは長いまつ毛を伏せて急に自信なさ気な表情になった。
「……、えっと、選択肢なんでしたっけ?」
俺はさっきの選択肢を復唱してあげた。
「うん…、分かりました。うーん、えーと…。」
氷川さんは何度も頷きながら、少し考えている様子だったが、やがて、今日一番の笑顔を見せてこう言った。
「決めました!全部の選択肢でお願いします!!」
その清々しい笑顔はあまりにも可愛くて、不覚にも見惚れてしまい、彼女の言葉を理解するのが、一瞬遅れた。
「ん?全部って…嘘だろ〜っ!!?」
嘘コクの第一人者である俺も流石に度肝を抜かれたわ。
氷川さん…、恐ろしい子…!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます