第51話 はじめての……。

 ◇◇◇◇◇


「S級ダンジョンはイースって言うのね。

 第七位階天使に第七位階悪魔ねえ。

 いろいろ信じられない世界ね。」


「全部本当なんですよ。」


「そうね。颯ちゃんは嘘言う子じゃないから信じるわ。」


「それで、今起こってるスタンピードは魔界が決定したことなのね。」


「はい、地球をリセットするためだそうです。」


「なるほどね。恐ろしい計画ね。颯ちゃんがいない間に、各国でスタンピードが頻発してるわ。かろうじて抑えられてるけどね。これが続くとたしかに危ないわね。」


「今起こってるんですか?」


「世界同時多発スタンピードほどではないけど、各地で発生してるわね。特に南半球に偏っているわ。アフリカ、南アメリカ、オセアニア地域ね。」


「そうですか。やはり、イースの瘴気の濃い地域と一致してますね。」


「それで、颯ちゃんは、その瘴気を吸い取っているのね。」


「はい、でも瘴気の中は魔物が異常発生しているみたいで、付近に近付くと周囲を囲まれてしまうんです。それをひたすら狩りまくって、吸い取っているんですけど、なかなか効率が悪くって。」


「それで、一時帰界したんだったわね。

 次の計画って何なの?」


「詳しくはわかってないんですけど、みんなを連れて来てほしいと言われてます。」


「みんなって?」


「同居人の5人です。」


「「「「「えーーー!」」」」」


「私たち?」

「なんで?」

「行けるの?」


「うん。ルームを使えば行けるらしい。

 ここからが本題だけど、みんなは行くつもりがあるか確認したいんだ。」


「私は行くよ〜!面白そう!」


 朱美は即決か!こういうところはすごいな。


「ちょっと説明の途中だから。向こうの魔物はこっちより強い。特に瘴気付近の魔物は凶暴化してるからね。それに南に行くに従ってもっと強くなるはず。まあ、ルームに居てくれるだけでも俺としてはありがたいけどね。なんせ、ぼっち生活だから。危険がある認識で決めてほしい。」


 一瞬間が空いた。ような気がした。


「私は行く。保護者だからね。」


「私もね。恋人だもの。」


「そうね。当然!私もよ!」


「はい…。行きます。」


 もう涙出そう。みんな!ありがとう!



「すごいわね。いいもの見せてもらったわ。

 こちらで準備するものは言ってちょうだい。

 颯ちゃんたちなら、なんとかしてくれそうだけど、無理しちゃダメよ。

 とは言っても、この世界がかかってるのよね。申し訳ないけど、よろしくお願いします。」


 珍しく、藤堂さんが頭を下げた。

 こんな藤堂さん見るの初めてかも。



 一通りの説明が終わって、藤堂さんは帰って行った。見せないようにはしてるんだろうけど、やはり、ショックだったように見える。

 

 伝えた内容については、混乱を招くだけとの判断で、ここだけの極秘事項ということになった。たしかに、この情報を聞いたところで出来ることは俺たち以外に何もない。今後、どういう形で伝えていくかは、藤堂さんが預かる形に。申し訳ないです。


 ただ、アメリカ合衆国には、ハーデスではなくイースと呼ぶように伝えておくとのこと。

 あと、帰ってきたら、松田さんには状況を共有することにしたが、前回戻ってきたときに聞いた話だと、松田さんでは、瘴気付近に近づくことが出来なかったらしい。だいぶ差がついたようだ。俺たちは、気を引き締めてできることをするだけだ。



 このあと、みんなの現状を確認するために全員のレベルを教えてもらった。


 竜崎麗奈:レベル45

 桂木静 :レベル40

 坂本朱美:レベル39

 橘桜  :レベル35

 桂木若葉:レベル35


 だいぶ、頑張って上げたなぁ!

 でも、今から向かうところは尋常じゃない世界だ。これで足りるのかは不安だな。向こうでも、まずはレベル上げをしないといけないな。

 無理せず、安全第一で考えよう。



 そのあと、観客1人のオンステージ!

 迷宮HAPPYのライブを見せてもらったよ。


 なぜ、うちにペンライトあるの?

 一人だと恥ずかしい……。

 逆にこのライブを人前でやってるって、心臓が強いなぁ。カッコいい。



 ◇◇◇◇◇



 久々の我が家!みんながいる。

 これからも一緒にいられるって嬉しいけど、向こうに行ってからどうなるんだろう。


 今回は早く戻るために、急ではあるが無理を言って、明日には物資の積み込みを終えて、イースに戻ることに決めている。


 俺は日が変わると同時に、日課のデイリーをこなして眠りにつこうと思ったのだが、そのときドアをノックする音がした。


 コンコン!


「私だけど、今ちょっといいかな?」


「ちょっと待って。今、鍵開けるから。」


 ガチャ!


「どうしたの。眠れないのか?」


「うん、ちょっとね。入っていい?」


「うん、いいよ。どーぞ。」


 ガチャ!


「座っていい?」


「うん。どうしたの?」


「うん、明日から違う世界に行くんだと思ったら、なんだか眠れなくって。」


「そうだね。巻き込んじゃってごめん。行くの不安だよね。」


「あ!そういうんじゃないから。むしろ、一緒に行けて嬉しいんだけど、ちゃんとやれるかが不安かな。ひとつお願いを聞いてくれる?」


「うん。もちろん。何?」


「抱きしめてほしい。」


 ……。


 うおー!ビックリしたけど、まじめに答えなきゃ。


「うん。いいよ。」


 俺は緊張で全身硬直しながらも、優しく抱きしめました。我ながら、上出来じゃないですかね。こういうのは慣れてないから。



「ありがとう……。ねえ。」


「何?うぐっ!」


 いきなりの不意打ちキス!しかも深いやつ!

 初めてなんです!けど、気持ちいい。

 心が溶けそう!こんな感じなんだ〜!



「ふふふ。油断したね!

 キスってすごいね。何か気持ちが入ってくる感じがした。嬉しかったです!

 ありがとう。また明日ね。」


 ガチャ!


 うーん。出て行った。

 なんというか、こちらこそです。

 余韻で逆に眠れなくなりそう……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る